『見世物大博覧会』

 山口昌男の三部作『「挫折」の昭和史』『「敗者」の精神史』『内田魯庵山脈』を読んで、プラハ生まれの劇作家で チェコ共和国の大統領を努めたヴァーツラフ・ハヴェルの言葉が浮かんだ。

《 たしかに、ある意味では、知識人とは、もともといつでも戦う前からすでに敗北しているもの、いわば、 永遠なる敗北を宣告されたシジフォスのごときものであり、勝利している知識人なんぞというものがうさんくさい のです。ところがまた一方では、べつの、もっと深い意味において、知識人は、自己のあらゆる敗北にもかかわらず 敗北しないでいる──シジフォスのように──とも思います。まさに自己の敗北によって勝利するのです。 》  木田元・編『一日一文』岩波書店2004年2刷、「9月2日」

 ネット注文した図録『見世物大博覧会』国立民族学博物館2016年が届く。大阪には行けないので、これで我慢。 内田魯庵が知ったら我が意を得たりと大いに喜ぶだろう。
 http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/20160908misemono/index

 すっ飛んだ(見世物だから当然)展示物から連想が飛ぶ。1970年前後の全共闘〜反体制運動でばらまかれたチラシも、 このような見世物とつながっている……まずは人が集まらなければ始まらない。当時のアジビラガリ版刷り〜活字) を保管しているが、面白い。1970年の「安保6・15記念前夜集会 6・15大統一行動 日比谷野音 午後1時総結集」の ポスターは、たしか電柱に貼ってあったものを深夜密かに剥がしてきた。見つかったら半殺しの目に遭う。「主催  革命的共産主義者同盟マルクス主義者青年労働者同盟・マルクス主義学生同盟・中核派」。
 明治は四十五年。1970年からすでに四十五年を越えた。
 横のつながりを内田魯庵(そして山口昌男)は重視したが、東大全共闘議長の山本義隆の奥さんは画家の山本美智代。 彼女の多摩美術大の山岳部の後輩が味戸ケイコ。山本美智代さんが表紙を手がけていた雑誌『南北』1969年最終号29号 の裏表紙には山本美智代印刷画集『銀鍍金(ぎんめっき)』前衛社の広告。執筆者には稲垣足穂、加藤郁乎、種村季弘塚本邦雄ら、私の好きな文筆家たちがずらり。このつながりはじつに面白く興味深い。『見世物大博覧会』のトリを 飾るのは十五ページを費やしている寺山修司中井英夫が彼を世に送り出し、寺山の葬儀では弔事を述べた。山本美智代 第二画集『銀鏡 MIRRORING 』三彩社1976年には中井英夫の短文「見えない手」。紀伊国屋画廊の個展で中井英夫から 本を勧められ(強要)一万円を払った。財布には千円札一枚。帰りの切符は買ってあったからよかったけど。寺山修司が 評価し、手を貸した語り女・松田晴世。彼女と一緒に紀伊国屋ホールへ寺山修司へ挨拶にいった。その時代特有のネット ワーク、人間関係の横の網目が広がってゆく。
 昭和四十年代の新宿西口という場に引き寄せられた文筆家、音楽家、美術家、演劇家、思想家、活動家らが起こした 逸話、騒動の数々は、いやあ空前絶後だったなと、今にして思う。2003年9月9日(火)〜11月2日(日)、小特集 「新宿・言葉・JAZZ 1966〜1975」展を「昭和40年代の記憶」という副題でK美術館で催した。
 http://web.thn.jp/kbi/zz1.htm

 朝、電気温水器の検査に来た係員から「テレビ出てましたね」と言われる。NHK総合の再放送。来月、源兵衛川のゴミ拾いをしている場面が放送される予定。女優の羽田美智子から声をかけられる。NHKBSプレミアム10月14日(金)午後9時 〜10時「発見!体感!にっぽん水紀行『富士山麓』」。

 昼、内野まゆみさんに誘われて裾野市水窪のカフェ「草の実」で昼食。食材はすべて自家農園で育てたもの。美味しい。 肉がないのに満足感と幸福感を久しぶりに味わう。正解。惜しいのは、月火金の昼〜午後四時の営業。臨時休業もある。 欲のないいい感じの店。隠れ家とはこういう店を言うのだろう。小旅行をした気分。

 ネットの見聞。

《 ベトナム国ハノイ駅付近。
  大幹線である南北線(統一鉄道)だが、駅を出発した途端にこんな路地裏を突き抜けてゆくから面白い。 》 だーはら
 https://twitter.com/W_gakuin_KH/status/779515046644682752/photo/1

《 時が経つにつれてだんだん黄色くなる紙を使ったと、編集の方から聞きました。今から楽しみです。 》 林由紀子
 https://twitter.com/PsycheYukiko/status/780379782005469185

 末永昭ニ『貸本小説』アスペクト2001年初版、「あとがき」

《 本文用紙には、時間がたつと貸本そっくりに変色する紙を選んでいます。 》

 ネットの拾いもの。

《 某書店に永六輔さん大橋巨泉さんなど最近亡くなった人の著書を並べたコーナーがあった。徳川家康の本もあったので、 ああ家康も亡くなったかと一瞬しんみりした気持ちになったが、それは隣のコーナーの本だった。 》