『かたちのオディッセイ』

 氷雨。オイルヒーターを出す。ぎっくり腰にならぬよう階段をゆっくり運ぶ。起動。先月25日に友だちが買った 幼鳥のセキセイインコ。この寒さではどうだろうと朝、メール。返事「平気、元気で大騒ぎ」。やれやれ。
 午後になって雨は止む。箱根山は雪化粧。

 中村雄二郎『かたちのオディッセイ』岩波書店1991年初版を読了。充実した読書だった。まさしくオディッセイの 永い遍歴のようだった。

《 しかし、合理的な数の関係は錯綜した現実を整序するには有効であっても、だからといって現実そのものが そのとおりになっているとは限らないのである。 》 「第9章 色のある世界・色のない世界」251頁

《 通常、黒白の世界や灰色の世界は〈色のない世界〉と考えられている。しかし、それらは実は色の隠された、 あるいは潜在化された世界というべきものなのだ。 》 「第9章 色のある世界・色のない世界」258頁

《 この考え方の方向を押しすすめていけば、波長としての色も、前章の「場所とリズム運動──空白と充満の ダイナミックス」において私が示した場所、つまりリズム運動(非線形振動)とそれら相互の引き込みによる 共振から成る動的な場所のなかに組み込まれることになり、ひいては科学的にも象徴論的にもコスモロジーを 形づくる宇宙リズムの一部として捉えることができるのではなかろうか。 》 「第9章 色のある世界・色のない世界」 260頁

《 リズムや振動や共振に対する私の関心は、場(フィールド)の問題とも結びついて、量子の実在を示す量子場の 振動や、ビッグ・バンが示す宇宙の、抽象空間からコスモスへの回帰にも向けられたが、私にとって大きな課題として 残ったのは、生命的・具象的な形象と非生命的・抽象的(幾何学的)な形象とをどのようにして関係づけられるか、 ということであった。 》 「第10章 振動のひらく世界」282頁

 著者は最終章「補遺 形態共振と視覚の自明性」で、養老孟司唯脳論』での批判を書いている。

《 氏のこの議論は、私〈共通感覚論〉にもかかわり、かたちの問題を展開する上に好都合なだけでなく、 それ自体としても興味深いものなので、これについて考えたい。 》 「補遺 形態共振と視覚の自明性」306頁

 養老孟司の批判とは。

《 そもそも視覚像を積み上げて、聴覚─運動像にすることができるだろうか。できるとすれば、それを脳は どうやるのか。 》 「補遺 形態共振と視覚の自明性」307頁

 2014年7月27日の拙日録に引用した養老孟司唯脳論青土社から。

《 外界の事物は、ただなにげなくそこに存在している。しかしわれ われの脳はそれを、聴覚や運動系に依存して、 時を含めてとり込む。 あるいは視覚系に依存して、時を外してとり込む。この二つが脳の中で 「連合」するのは、 そう簡単ではなかろう。 》 『唯脳論』155頁

《 生物が生きている自然の環境で、音と光は必然的に結びつくもの ではない。両者が異質であったからこそ、 光と音に対する受容器、 すなわち目と耳とは独立に発生し、進化した。 》 『唯脳論』161頁

 それに対する中村雄二郎の対応。

《 先に見たように、養老氏は人間の動きを視覚系と聴覚─運動系とに分け、両者の連合のうちにヒトの言語の成立を 見ている。しかし、私に言わせれば、聴覚─運動系として聴覚と触覚(広義の触覚、つまり筋肉感覚や運動感覚を 含んだもの)を一緒にするのは乱暴であり、言語そのものも五感(視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚)を貫き統合する 〈共通感覚〉にほかならない。
  養老氏のように視覚系と聴覚─運動系とにわける根拠があるとすれば、視覚を非時間的なものとみなし、 それとの対比で時間性の強いものをまとめるとき、聴覚─運動系が出てくるのである。視覚的なもののもつ自明性と いうことは、立証のためにいろいろな手続きを必要としないから、証明を求める者にとってはたいへん好都合なように 見える。しかし、自明性は、その代表格の幾何学の公理でさえも、ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学では 異なるし、もっと一般的にはパラダイムによって異なるのだから、絶対的なものではないのである。 》 「補遺  形態共振と視覚の自明性」309頁

 『かたちのオディッセイ』の副題「エイドス・モルフェー・リズム」について。

《 したがって、エイドスがわれわれの眼に明確に見える、もののかたちを指すとすれば、モルフェーのほうは、 薄暗く定かならぬところから立ち現われる姿・形、表層的ではなく深層的な、静的ではなく動的な姿・形を指している。  》 「第3章 形象の誘惑」65頁

 ネットの見聞。

《 どんどん睡眠時間が短くなっていくと聞いていたけど、いまだに予定がないと八時間寝るし、昼寝もしたりするし、 六時間だと足りない感がある。 》 近藤史恵
 https://twitter.com/kondofumie/status/801476691759546368

 毎日八時間余寝ている。ときどき昼寝。

《 生きていれば楽なことばかりではないが、楽をする努力は怠らないようにしたい。頑張る。  》 文壇高円寺
 http://gyorai.blogspot.jp/2016/11/blog-post_22.html

《 「転ばないようにお出かけください」と笑顔で言うときは、内心「転んでしまえ」と思っているのかも。ああ、怖い(笑) 》  Galleryカサブランカ
 https://twitter.com/ga_casab/status/801590232558620672

 ネットの拾いもの。

《 渋谷をスーツ革靴でダッシュした代償は大きかった… 》 ぱちゃ
 https://twitter.com/pachaorz/status/790931410139750400