『日本文学史序説 上』ニ

 加藤周一『日本文学史序説 上』ちくま学芸文庫2009年8刷、「第ニ章 最初の転換期」を読んだ。

《 八世紀末の平安遷都(七九四)から一○世紀初へかけてのおよそ一○○年間は、そのときまでに輸入された大陸文化の 「日本化」の時期である。 》 126頁

《 その意味で、この国の文化の歴史は、奈良朝および以前の前史と、九世紀以後今日までの時期に、大別することさえ できるのである。 》 126-127頁

《 最後に美的価値の歴史について。後述するように、『万葉集』と『古今集』(九○五)とは、歌人の出身階層、 歌の分類、形式、語彙、表記法のすべてにおいて著しくちがい、『古今集』とその後の勅撰集はほとんどちがわない。 》  135-136頁

《 あるいは日本における体系的精神が、『十住心論』の包括性と内的斉合性において、はじめて自己を実現した、という こともできる。空海とその主著が画期的なのは、そのためである。 》 142頁

《 このように、『日本霊異記』の世界は、仏教の「日本化」というよりも、土着思想が仏教をほとんど解体し、拡散させ、 装飾的効果に還元しようとしていた世界であった。九世紀の精神的日本のすべては、まさに、『十住心論』と『日本霊異記』 の両極の間に考えられるのである。 》 149頁

《 知識人の二つの型を代表していたのは、衆目のみるところ、菅原道真紀貫之である。 》 153頁

《 そういう事情は、九世紀初の勅撰詩集においても同じ。そこには、詩人の感情や感受性の同時代性が問題になり得る 条件がなかった。事情が変り、漢詩が詩人の心の表現となったのは、九世紀を通じてであり、遂に一人の菅原道真が、 シナ語を駆使しながら、もはや見たこともない長安の美女の閨怨ではなく、彼自身の挫折の血を吐くような怨念を語る ようになったのである。 》 155-156頁

《 九世紀の初に、空海と共に、仏教の哲学的側面は、日本の思想の一部分になった。九世紀の終りに、道真と共に、 仏教の宗教的側面は、はじめて日本の抒情詩の主題となったのである。 》 157-158頁

《 かくして九世紀末一○世紀初(と推定される)には、全く対照的な『竹取物語』と『伊勢物語』とがあり、前者は その緊密な構成において、後者は心理的に微妙な状況の多様性において、『土左日記』を抜いていた。前者が道真型の、 後者が貫之型の知識人の仕事であったろうことは、先にいったとおりである。両者が出会うときに、平安時代の散文文学の 最高の作品、『源氏物語』と『今昔物語』が成立するだろう。 》 170頁

《 転換期としての九世紀の意味は、和歌の領域に、また和歌を通しての美意識の変遷に、もっとも鮮かにあらわれている。 》  170頁

《 実に九世紀が決定した美的感受性の型は、平安時代を貫いたばかりでなく、貴族支配層の政治的没落の後にも長く生きのび、 能と連歌を通って、歌舞伎や俳諧にまでその影響を及ぼしながら、今日に到った。八世紀以前の美学的な類型の影響が今日まで 及ぶものは、ほとんど全くない。 》 182頁

 今朝は寒かった。-3.5℃。少しは慣れたのか、以前ほどきつく感じなかった。感官が劣化しただけかもしれない。
 野暮用のついでにブックオフ沼津リコー通り店へ足をのばす。『ちくま日本文学4 尾崎翠ちくま文庫2007年初版、神吉拓郎 『洋食セーヌ軒』光文社文庫2016年初版、計216円。変換したら「容色セーヌ件」。これはこれで一篇できそう。題を少し変えて。 「容色小町件」。「第ニ章 最初の転換期」で引用されていた小野小町の名歌。

   花の色はうつりにけりな いたづらに我身世にふるながめせしまに

 一昨日話題の『 UMALALI 』を聴きながら南瓜を煮ていて、危うく焦がすところだった。やれやれ。その『 UMALALI 』。二枚を 追加注文。年上の女性画家たちに贈る予定。

 ネットの見聞。

《 小泉喜美子「血の季節」読了
  昔文春文庫版で持ってたのに読み損ねてたのを今回復刊を機に読んだ
  犯人の少年時代の回想と現代の事件捜査の過程が交互に並べられてるが果たしてホラーな展開になるのかならないのか 読めないハラハラ感があった
  古書価高めの「ダイナマイト円舞曲」も復刊されるといいな 》 ハジメ
 https://twitter.com/tomo_el/status/830629906484588544

 文春文庫1986年初版の戸板康二の解説結び。

《 私は「血の季節」をいま読み終り、ここに書いたような感想を、彼女としみじみ語りたかったと、痛切に思うのである。
  それが、彼女の不慮の死のためにできないのが、なんとも残念でならない。
  やはり、この作品は、故人のすぐれた代表作と呼んでといい、と確信する。 》

 小泉喜美子さんから届いた絵葉書から。

《 いつもはげまして下さって本当にありがとうございます。(中略)いろいろ妄想しているので、実生活も失敗ばかりです。 ルース・レンデルの新作の訳出を角川から頼まれて、楽しくとりかかっています。以前「小説推理」に百枚で発表した作品を 長編に仕立て直して出す予定。「ウールリッチに捧ぐ」と銘打って。待っててね。 》

 ネットの拾いもの。

《 能年玲奈さんは事務所と揉めて「のん」になったから、清水富美加が揉めて「ふん」にならないか心配です。 》  犬も歩けば
 https://twitter.com/Inumo_Arukeba/status/830358714527780865

《 近所のコンビニ行くと、エロ本コーナーは高齢向けばかりなのだが、今日は「独居老人、人生最後の恋」 という表紙の見出しが目に入り、この雑誌の編集会議の様子を見学したいと思った。 》 涌
 https://twitter.com/YOW_/status/830996424602947585

《 日本語における「グローバル化」を、「アメリカべったりの姿勢」と定義・解釈するならわからんでもない 》 アニ
 https://twitter.com/gorotaku/status/830900448198418432

《 世界の嫌われ者二人が、他に遊んでくれる相手がいないので身体を寄せ合って慰め合ってます 》

《 なぜ日本海に向けるか。
  他の方向に打ったら大事件だからです。 》