『加藤周一著作集5 日本文学史序説 下』六

 『加藤周一著作集5 日本文学史序説 下』平凡社1980年初版 「第一○章 第四の転換期 下」を読んだ。

《 いわゆる「大正デモクラシー」は、天皇制官僚国家の構造の民主化ではなく、帝国憲法の枠組みのなかでの政策の民主化、 または自由主義的な妥協である。同時代のワイマール共和国が政治制度そのものを変えて、民主主義な憲法を作ったのとは、 根本的に異なっていた。
  この相違は、三○年代に、政治制度を変えた「ナチ」とはちがって、日本の「天皇ファシズム」が、憲法の枠組みのなかでの 政策の再転換により成立しえたことを、説明する。 》 494-495頁

《 斎藤(茂吉)や武者小路(実篤)には、そもそも歌壇の、あるいは文壇の外の政治的現象を分析し、それに対して意識的な 立場をとる習慣も、そのために有効な概念的道具も、なかった。「ファシズム」が上から迫ってきたときに、彼らはいわば 無防備であったといえよう。しかし宮本(百合子)や中野(重治)には、マルクス主義があり、日本共同体の境界を越境する 知的道具があった。
  しかしマルクス主義が一世代の文学者の眼を政治社会現象に向ってひらいたということは、また「転向」後の多くの作家が、 戦争と軍国主義の積極的な支持者となり得ることをも意味していた。かつての社会主義の理論家たちは、「大東亜共栄圏」を 理論化するためにも働いた。 》 511頁

《 川端(康成)は少女と焼物を愛した。(略)焼物も、女も、みて美しいばかりでなく、指で触れ、その指の先の感覚に、 主人公とそのものとの関係のすべてが要約されるような対象である。(略)女は焼物の如く、焼物は女の如くである。 》  519頁

 焼物と女性の肌は、以前から近しいものとして聞き及んでいるが、私にはやっぱり全然違う。

《 『天皇の世紀』は歴史であるばかりでなく、また歴史文学としても劃期的である。われわれはそこに時代と社会的変化を 鮮かにみるばかりでなく、日本人の、あるいは人間の、実に豊かな劇をみることができる。一箇の文学作品として、日本文学史上、 これほどの規模と深さを兼ね備えるものは、おそらく少い。 》 527頁

 大佛次郎天皇の世紀』、いつか読もうと前半は単行本新刊で購入、後半は古本の文庫で揃えてある。

《 渡辺一夫訳『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』は、ラブレーの本文解釈の最高の水準を示し、その意味では、 現代フランス語訳を含めて、現存する各国語訳の最良のものである。しかも流麗かつ明快な訳文は、現代日本語の散文の表現能力を ほとんど無限まで拡大し(ラブレーの語彙!)、日本文学に全く新しい要素をつけ加えた(無制限な想像力と哄笑)。 》  528-529頁

《 けだし現代日本語の散文における知的「ヒューモア」の一つの型は、一人のフランス文学研究者によって創りだされたのである。  》 530頁

 その岩波文庫五冊が本棚にある。読まれるのを四十年待っている。

《 かくして両大戦間の西洋思想の挑戦に対する林(達夫)・石川(淳)・小林(秀雄)の反応は、徳川時代以来の、あるいは さらにさかのぼって、平安時代以来の、日本の文化の構造を反映したといえるだろう。 》 550頁

 林達夫石川淳は、これからも読むだろう。小林秀雄は殆ど未読。『本居宣長』が本棚にあるが、読むことはなさそう。

 昼前、源兵衛川上流〜水の苑緑地のヒメツルソバを駆除。土のう袋半分。楽になった。が、小さいので手間がかかる。 作業は一時間半が限界。ずっとかがんで注視しているから、ま、そんなものだろう。無理はいかん。きょうはこれまで。

 ネット、いろいろ。

《 我慢できないから叫ばせて。「どうして担当税理士が変わっただけで去年までスムースにできてた確定申告がこんなに滞るんだ!  あの書類がないとかこれがないとかクレームばかり。去年と同じことしてるのにぃ!」 》 太田忠司
 https://twitter.com/tadashi_ohta/status/839311181512863748

 私は税理士からの一度の問い合わせで終了。

《 「誰もが価値を分る本」なんて、誰かしらが大切に保管してくれているから国が保管する必要ないのですよ。 たかだか一世紀足らずの漫画の歴史ですら困るのはそこなのに。 》 高橋けんじ
 https://twitter.com/Q47SM9/status/839302851868270592

 味戸ケイコ、安藤信哉、北一明……。今のところ私以外に保管する人は現れない。

《 ということは、もうアートにおいて前衛的位相はあり得ないということではないか。ネタでやるのはともかく大真面目には。 》  大野左紀子
 http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20170305/p1

《 このちっぽけな私が時に私を超えた何かを提示することができるかもしれない、という思いで絵を描いている。 自分を見せることしかできない人は表現者ではない。自己愛が肥大した可哀そうな人だ。 》 林由紀子
 https://twitter.com/PsycheYukiko/status/839130895743229952

《 ミサイルを発射したのは北朝鮮の仮性包茎部隊だとテレビから聞こえてきたので、驚いて顔を上げると 「火星砲兵部隊」だった。紛らわしい名前をつけるな。 》 冬樹蛉
 https://twitter.com/ray_fyk/status/839216058279981056