『娼婦』

 山田登世子『娼婦  誘惑のディスクール日本文芸社1991年2刷を再読。四半世紀ぶりかな。読んだことは 覚えているけど、内容はすっかり忘れた。昨日の『ブランドの条件』が面白かったので。四章からなる第一章は 「肉の宝石」。平伏する章題だ。紙の宝石(蔵書票)、飛ぶ宝石(翡翠)は知っているが。項目は「絹と香水」 「肉の宝石」「ボタンと近代」「色変わり」。

《 絹と香水は、女をいっそう優雅にする。そして女は、この優雅の技によって誘惑者となる。 》 16頁

《 けれども、女たちがそうして衣装に身を飾り、飾ったその身を「まなざし」にさらす空間は、もちろんデパートの 外に広がる都市空間全体であり、とりわけトレンディなスポットであった。 》 65頁

 昨日、『ブランドの条件』を読みながら、そんな衣装を見せびらかす空間は、地方都市から繁華街という言葉が意味を 失っていくのにつれて消失したな、と思った。ショッピング・モールはそのような場所ではない。ハレの場所がいつしか 消えていた。三島では我が家の前の旧東海道=大通り商店街がハレの場になるけれども、それは上記引用の空間から程遠い。 しかし、源兵衛川が昭和末のままだったら、他の地方都市同様に痴呆都市に成り下がっていただろう。それが三島駅南口、 西側に沼津市から撤退した東急ホテルが進出するんだから。シティホテルだとか。へえ。

《 だが語り手=プルーストの趣味は、モダンな《シック》よりも古典的な《エレガンス》に傾いている。 》 77頁

 若い人のモードは昭和末の《派手》から最近は《目立たない》へ、という印象。

《 ボードレールは《風俗の領域》に美を見いだした最初の詩人である。 》 85頁

 未だに見いだされずにいる美がどこかにあるに違いない。美術全集が出版されるたび、収録される作品は異なっていく。 味戸ケイコさんもついに見いだされた。
 味戸ケイコさんで想起。昭和四十年代の記憶。K美術館で2003年に催した展覧会「新宿 言葉 JAZZ」だ。
 http://web.thn.jp/kbi/zz1.htm
 今にして思えば「1970年の記憶」としてもよかった。そして今、1970年代のダークサイドをサブカルチャーで企画してみたい。 音楽ならば藤圭子山崎ハコ山下洋輔トリオ〜浅川マキ。演劇ならば状況劇場天井桟敷。加藤郁乎、鈴木いづみ平岡正明ら 文筆陣。充満する熱気といきり立つ殺気。今だからわかるその時代相。

《 むしろボードレールは語のあらゆる意味でヴァニティに殉じたのだといってよいだろう。偽りに耀く虚-無の花に。 》  95頁

 『虚無への供物』の中井英夫を連想。違うな。

 それにしても美麗な文章だ。ゾラが、バルザックが、ボードレールが、フロベールが、プルーストが、華麗な描写を繰り広げる。 典雅な音楽に身を委ねるように文を読んでしまう。珍しい体験た。第四章「愛のドラマツルギー」の序。

《 モードの夢幻劇のなかに封じこめられて、衣装と衣装の織り成す戯れにまなざしを奪われ、出口のない部屋に宙吊りになったわたしたち。 》 118頁

《 愛はいかなる術策をもってもなだめがたい《手に負えぬもの》なのである。 》132頁

 パリの娼婦の婉麗にして苛烈な生活。怒涛の展開を堪能。「あとがき」冒頭。

《 何も言いたいことがない。何も言いたくない。著書でも訳書でも、「あとがき」でこんな思いをするのははじめてである。 》  148頁

 昼前、近くのホームセンターへ自転車で行き、材木の切れ端を二個と両面テープを買う。内野まゆみさんから恵まれた、 縦横十センチ足らずの板絵を、葉書よりちょっと大きめの板に貼り付ける。ただそれだけでいい感じ。当初は枠板で額装する つもりだったが、板を当ててみると、板材のほうがスッキリする。木目が品のある銘木ゆえかな。三センチ四方のタイル画には 横長の板材を。これまた上品。さりげなく簡明な草の戸。じつに和モダン。タイル画は、25日の昼に店を開ける「ベルス」で販売。 安すぎると言うと「お土産だからいいの」。大人買いしそう。
 沼津市大塚298−1(長興寺入口)

 ネット、いろいろ。

《 辺野古移設反対派のリーダー保釈 抗議活動事件、拘束5カ月 》 東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017031801001640.html

《 共謀罪は一定の条件が整えば「目配せ」でも成立する、と大林宏法務省刑事局長(当時/現:検事総長)。虚構新聞に非ず。  》 津原泰水
 https://twitter.com/tsuharayasumi/status/843124817968562178

《 今日は盛林堂書房の店頭で百円均一の本を一冊つかみ「今日はこの百円の本を買ってくかー」と店内に入ったら、 色々あって2万円以上使ってしまった。予定の二百倍……。 》 北原尚彦
 https://twitter.com/naohikoKITAHARA/status/842731845401763840

《 来年開館のツタヤ図書館、中身空洞のダミー本を3万5千冊も購入!巨額税金投入の裏側 》 @niftyニュース
 https://news.nifty.com/article/item/neta/12111-31925/

《 厳粛な会場にネコ一匹 》 河北新報
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170319-00000013-khks-soci