「経験の条件」

 岡崎乾一郎「経験の条件」(『批評空間』1995年臨時増刊号収録)を読んだ。目から鱗の論述。その冒頭。

《 周知の通り、晩年のマチスは南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂の設計と制作に没頭している。マチス自身が彼の仕事の到達点として述べる、礼拝堂の構成のあまりの 単純さに、はじめわれわれは拍子抜けもするが、やがて、その企図の深さと大胆さに気づくにつれ感嘆させられずにはいられない。 》 246頁

《 このようにヴァンス礼拝堂壁画では、「非現実性のレヴェル」の中心が失われて、複数の異なる表記レヴェルが、表向き等値に分裂したまま重なりあっているようにも 見える。通常、オリジナル(現実/主題)からの距離(その直接性の濃度の差)によって測られる、表象の現実性の段階が、その中心場面が希薄にされているために 成立しなくなっていたわけである。けれども、それらはただ等値に並列されていたわけではない。たとえば、にもかかわらず何故、ヴェロニカのハンカチーフだけが、 そこから浮き上がって見えたか。 》 253頁

《 つまり、このハンカチーフはその内部に囲われた空間によっても、もちろんその四角という形態自身によっても、画面全体の空間ないし形態と対抗し、それを反復 している。それを強化するようにハンカチーフの形態内部のキリストの肖像と数字の配置関係は、画面全体上での形象と数字の配置関係を反復していたわけである。 以上から引き起こされる論理的な混乱(それに基づく視覚的混乱)を唯一解消するには、ハンカチーフの内部空間を、画面全体の平面内に従属しているのでなく、 その外部にあって画面全体と対照していると見ることである。すなわち同一空間内に存在しないものとして見なすことだ。 》 253−254頁

《 マチスの絵画は分裂した複数の平面性によって特徴的だったのだ。(中略)マチスでお馴染みの室内を主題にした絵画では、その分裂は最もあからさまである。 (中略)概して画面全体の中で室内空間は相対的に浅く薄く塗られるのに対して、そこに配置される絵(画中画)や鏡、窓、布などは、平面的ではあっても充実した 密度の色のボリュームで描き込まれることが多い。従って異なる表象間のレヴェルの差、その虚構性の度合いは不明瞭になり、しばしば、ひとつのイメージが、室内に 実際居る人物を描いたのか、絵(画中画)の中の画像なのか、彫刻なのか判別不能になる。つまり画面中央の空間、基底空間が圧縮され平坦化、希薄化されてしまった おかげで、決して両立しえない異なる次元の表象が等価な「現実性」を与えられ、分裂したまま競合しあうという事態が引き起こされるのである。 》 255頁

《 最終的に、その視線をつなぎ止めるものは、ここでも、この絵の中にあってこの絵に属さないもの、つまり、この空間でありながら別の次元の空間に属す異なる系列の 表象群、とりあえず壁に掛けられた絵であり、窓の外の光景であり、鏡の中の表面的な空間であった。 》 255頁

《 つまり彩色、筆触、明暗、色調、肌目、形態という画面を組織する文法のそれぞれがまったく別個に画面を連合し、そのつど異なるプランを浮上させるわけで、 見る者の視線は、異なる文法による視覚のゲームを同時に遂行する事を要求されているかのように、そのたびに分裂させられる。端的に両立しえない複数の視線に 引き裂かれ、「見ていても見ていない」という非在感にさらされるわけである。ここでは「非現実性のレヴェル」つまり異なる表象系列の分割はリテラルに行われている のでなく、見る行為(言語ゲーム)の差異によって事後的に生成してくる。分裂した視覚のその一方にとってその他方は、互いにつねにアレゴリカル(非現実的・間接的) にしか見えない。 》 260頁

  リテラル:literal=文字(字義)どおりの

《 われわれの、アブソープションが視覚的欲望(感情移入/行為の一致要請)を喚起させ、シアトリカリティ成立の条件となる、という仮説は、ここで「同時に見る ことが不可能なものを同時に見ること」、「異なる言語ゲームを同時に遂行すること」が強制されて引き起こされる主体の分裂こそが、逆さまに言語ゲーム(あるいは 絵画を見る/作るという行為)を成立させる条件だった事態にぶつかったことになる。 》 261頁

  アブソープション:absorption=吸収、没頭
  シアトリカリティ:theatricality=芝居がかっていること

 ネット、いろいろ。

《 『大統領失踪』は好評のようだが『大統領の密使/大統領の晩餐』は二度目の年越しに。 》 藤原編集室
 https://twitter.com/fujiwara_ed/status/1075188982344871936

 小林信彦『大統領の密使』『大統領の晩餐』は角川文庫でもっているが、いつか読もうと幾星霜。

《  書痴呆への道

  第一段階 読んだ本の内容を忘れる
  第二段階 その本を読んだ事を忘れる
  第三段階 その本を買った事を忘れる
  第四段階 自分の部屋に大量の本を置いている奴は誰だ!と怒り出す 》 猟奇の鉄人
 https://twitter.com/kashibaTIM/status/1074911461980352513

 フラン・オブライエンン『ドーキー古文書』……内容、読んだ、買ったこと……第三段階か。部屋に本が多すぎる。

《  米軍がミスすると日本も金を払う。「日本政府が払う」なんて言っても、つまりは税金で払う。

  日米地位協定に基づき、両政府が合わせて8500万円余りの賠償金を漁協に支払う 》 清水 潔
 https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1074970135247482881

《 しかもこんなハイテク兵器、買ったらそれで終わりではなくて莫大な維持費がかかるだろうし、アメリカのサポートを受け続けないと運用できない仕様に なってるはずだから何かと追加でお金を吸い取られる仕組みのはずですよ。本当にバカらしい。民は税金ばかり取られて。 》 ぶたお@もてラジ
 https://twitter.com/kentlow/status/1074993099091267585

《 原発輸出挫折は日本と世界にとって良いこと。安倍政権にとっては大失策だ。 》 森岡正博
 https://twitter.com/Sukuitohananika/status/1074778360541138944

《  ・爆発の瞬間の映像は無い
  ・周囲の建物が木っ端微塵
  ・死人はゼロ
  ・ガス爆発と発表

  以上の点から漂う
  「能力者同士の闘いの痕跡を"機関"が隠蔽した感」 》 リカール@土曜東ヌ03a
 https://twitter.com/gvgexvs0919/status/1074552653223407618