閑人亭日録

『絵は語り始めるだろうか』八

 佐藤康宏『絵は語り始めるだろうか  日本美術史を創る』羽鳥書店2018年初版、「22 雨後のカンタン──渡邉崋山「芸妓図」を読む」を読んだ。カンタンは、 漢字が出ない。蓮の花の意味。昨日取りあげた『文人畫三大家集』審美書院明治42年に多色刷摺木版画が掲載されている。それを傍らに置いて参照。

《 それはまさにそのどちらにも属さない、モデルにポーズを取らせて描いたという雰囲気をはっきりと見せている。そして、この雰囲気が「芸妓図」の決定的な新しさに 結びついているのだ。 》 659頁

《 それから二十年を経て、世に媚びない美人画、いや美人画と呼ぶのはおそらく不適当な何物かを彼は作り出した。 》 665頁

《 画家が現実のモデルにポーズを取らせたことを意識させる、日本の女性像の歴史に初めて出現した絵画がどれほど斬新なものか、華山は彼自身理解していたと見える。  》 669頁

《 この極度に私的な表現は、しかし、さまざまな公的なものを意識しつつそれとの緊張関係の中でのみ成立した。 》 674頁

《 美術史の記述は、渡邉崋山を明治以降の絵画の先駆者のひとりとして扱うことが多い。けれども、そこでほとんど江戸時代における洋風表現の導入という局面が 注目されるに過ぎない。このような皮相な観察が、どれほど華山の仕事の意義を矮小化し、日本の近代美術史研究を平板なものにしたことだろう。華山が「芸妓図」で 成し遂げたことを正当に評価するならば、〈公〉に〈私〉を対置し、私的なるものの造形に殉じようとする態度こそが、明治以降の絵画に先駆けて突出している点である のを認めねばならない。彼の後に続く明治期の絵画が、油彩技法の普及であれ伝統技法の革新であれ、いともやすやすと〈公〉の制度に就き、華山が到達した地点から はるかに遠ざかって〈私〉なるものの析出を怠ったのをみるとき、「芸妓図」はひとつの重要な事件だったことを思い出される。 》 674-675頁

 そこまで読み込むとは。深甚な読みと歴史的視野からの深い論考に唸る。脱帽。

 「23 雅の断末魔──菊池容齋「呂后斬戚夫人図」」を読んだ。『芸術新潮』2018年5月号特集「最強の日本絵画100」の75番に選ばれている。何とも残酷な絵画だ。 後記で触れられている小林永濯「菅原道真天拝祷図」は76番に。

 「24 近代の日本画──前近代の眼で」を読んだ。

《 いずれも空間の広がりとか自然の実感とかに関わる絵画であるのは偶然ではない。絵画史が自己模倣によって継続するとき最も失われやすいのはこういう要素であり、 日本絵画は絶えず中国絵画との交渉によって遺伝子の組み換えを行ない、新しい自然像を生み出してきたのだ。ところが、近代の日本画と西洋絵画との交渉は、同じ成果を 生むほど濃密なものにはならなかった。 》 697-699頁

《 日本の近代は、西洋近代絵画がイリュージョニスティックな効果の達成から平面としての絵画の探求へと方向転換した時期に重なる。あるとき日本画はこの転換を 自覚し、過去の日本絵画が結果として残した平面性・装飾性を自らの目的として居直ったように思える。(中略)清潔さと停滞はそこに起こる。 》 699頁

 腑に落ちる、説得力のある論述だ。

《 日本画の価値は市場経済によって手厚く保護されているのだから、いまさらこれくらいの批判は何でもないだろう。 》 699頁

《 全体の論旨については支持も反論もほとんど聞いたことはなく、ただ、宗達大和絵脱構築したという書き方に対して、ある美術評論氏が難癖をつけたのを 目にしただけである。 》 後記 700頁

 日本画業界はそんなものか。

 昼前、自宅裏の蓮馨寺の源兵衛川で茶碗のカケラやガラス片を拾う。大通りまではほぼ拾った。ワイシャツ一枚で作業。ちょっと汗ばむ。ふう。コーヒーが美味い。
 昼過ぎ、さいたま市からの視察十五人ほどを源兵衛川~三嶋大社へ案内。楽しまれたようでやれやれ。帰宅後ぐったり。朝のゴミ拾いが効いた。

 ネット、うろうろ。

《 つげ義春サブカル漫画がフランスで「芸術」と呼ばれるまで/渡辺敦彦 》 COURRiER Japon
 https://courrier.jp/news/archives/153555/

《  【ほめ言葉いろはかるた-原稿編】(1/9)
  編集者のみなさん、ぜひどんどんご活用ください。
  書き手や描き手のみなさん、自分で自分にたっぷり言ってあげましょう。
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  い:いい原稿をありがとうございます
  ろ:ロマンチックな展開ですね
  は:ハッとさせられるご意見でした
  (リプライに続く) 》 石原壮一郎『会社の9割はバカ』発売中
 https://twitter.com/otonaryoku/status/1102425315803058176

《 【性に大らかだった日本】伊勢神宮には古市遊郭が付随し「伊勢参り、大神宮(遊郭)にもちょっと寄り」という川柳があったほど。 仏教でも浅草寺境内に吉原の花魁の絵図がかけられていた。明治に西洋人から「異常さ」を指摘され、性を切り離してゆく 》 フランス書院文庫編集部
 https://twitter.com/franceshoin1985/status/1102548749006581761

《 これはひどすぎる。国会で審議されている重要な課題(統計不正、森友土地廉売事件、など)は全部、無視されている。NHKの7時にニュースのひどさについて どこか報道するところはないのかしら。 》 中沢けい
 https://twitter.com/kei_nakazawa/status/1102701623883657216

《  凄いところにお城を建てる人達がいるものです。
  難攻不落以上の感想が沸いてきます 》 西荻窪 オールドアロウ
 https://twitter.com/The_Old_Arrow/status/1102600399045840902

《  加齢臭を抑えるカレー臭のシャンプー、というのが頭にふと浮かんだ。
  特に意味はない。 》 デッドセクション
 https://twitter.com/ACDCSection/status/1102778917650227201