『庭師ヴィリエ』(閑人亭日録)

 昨日入手した岩田慶治道元との対話』講談社学術文庫2000年初版、「学術文庫版あとがき」の一節。

《 セザンヌの晩年の絵に「庭師ヴィリエ」がある。この絵には何故か塗り残しが多い。麦ワラ帽の尖ったてっぺん、口ひげ、粗末な服のそこここ、そして庭木のところ どころ。色は描こうと思えば、もちろん描けるに違いないのだが、存在の内部からの光は描けなかったのだろうか。私はその塗り残しのところに人間と自然との深い対話を 感じるのである。そこで一瞬とまって、フッと一呼吸してから色が生まれる。塗り残しの白はそこにあるのではなく、木立のなかに、草むらの根もとにあったのでは なかろうか。それで描けなかった。 》 356頁

 画集『セザンヌ婦人画報社1996年初版を開く。「庭師ヴィリエ」1906年がある。やはりこれだ。ずっと心に残っている絵。晩年の水彩画はじつに美しい(ネットでは 見つからず。同様の絵はある)。しかし、岩田慶治のように考えたことはなかった。以前、セザンヌの水彩画に安藤信哉の晩年の水彩画を連想した。

《 晩成したその絵画では、対象は対象としてそこに確固として在りながら、そのかたちと色調は解釈に固定される手前の、瑞々しい感興のままに見事に引き出され、 自在に再構成されています。観る人は、肩の力を抜くことにより、その画面上を往還している自在な流れ、自在な気配に、いつしか心の風通しが良くなっていることに 気づかれるでしょう。 》 「安藤信哉(のぶや)・自在への架橋」
  http://web.thn.jp/kbi/ando10.htm
  http://web.thn.jp/kbi/ando.htm

 同じ塗り残し、余白でもその意味合いはずいぶん違っている気がする。安藤信哉の作品は、遺族の申し出を受けて返却。
 そして洲之内徹だ。

《 つまり、セザンヌが凡庸な画家だったら、いい加減に辻褄を合わせて、苦もなくそこを塗り潰してしまっただろう。凡庸な絵かきというものは、批評家も同じだが、 辻褄を合わせることだけに気を取られていて、辻褄を合わせようとして嘘をつく。それをしなかった、というよりもできなかったということが、セザンヌの非凡の 最小限の証明なんだ。 》 洲之内徹セザンヌの塗り残し 気まぐれ美術館』新潮社1994年7刷 69頁

 連想がすっ飛んで南伸坊『モンガイカンの美術館』朝日文庫1997年初版へ着地。1983年刊の元本は誰かに貸して戻ってこないので文庫本を手に入れた。「荒川修作は 東洋思想か」の章。

《 なぜこんなにケンカ腰なのかというと、テンランカイが面白くもなんともなかったからで、どうしてかというと、私の読めない外国語で、ワケのわかんないことが エラソーに書いてあって、バカにされたような気がしたからである。 》 139頁

《 第一、あんな描きかけみたいな絵をかけて、日本人が驚くと思うか! 俺の友だちなんて会期中に描き上げるのかと思って毎日通っちゃったぞ。 》 141頁

 以降笑える罵詈雑言が続く。

《 しかし、水戸黄門だってもうすこし「面白い」。 》 143頁

 あそこで筆を止めたセザンヌの絵は「面白い」かどうかはわからないが、私を刮目させた。それは感応した、といえよう。感応なんだよなあ。で、このページに挟んだ 栞の惹句は「面白さ、ぶっ飛び!!」実業之日本社文庫。ついでに『道元に出会う』「原本あとがき」から。

《 もともと、門外漢の私が『正法眼蔵』を巡って一冊の本を書こうなどとは、思ったこともなかった。 》 347頁

 ネット、うろうろ。

《  未だにノベルス版のウロボロスの基礎論を超える帯は存在しない件。

  この帯好き過ぎる。 》 zi
  https://twitter.com/iz7894/status/1145240594823778304

  山口雅也に激しく同意。

《 これ、ちょっとよく意味がわからんな。自分で自分の発言に対して「遺憾」って言ったの? 変すぎないか?→自身のエレベーター発言「遺憾」と首相 | 2019/7/2 - 共同通信 》 想田和弘
  https://twitter.com/KazuhiroSoda/status/1145921220875038720

《  弱者・被害者・まつろわぬ者の言葉は日本語の言説空間で響かない。言葉から疎外されたそんな存在に何が残るか?
  水俣病被害者訴訟団に故石牟礼道子氏が与えたのは、黒地に「怨」の字だった(彼女が考案し資金を出した!)
  存在を認められなかった者の主張の全てがこの一文字に表れているように感じられる 》 近本洋一
  https://twitter.com/you1chikamoto/status/1145623422153547776

《  ベン・フェレンツ(99歳)は国際法の分野では伝説的存在らしい。
  彼はニュルンベルクの裁判でナチのホロコーストを「人道に対する罪」であるとして告訴し、虐殺行為を、それ自体として罪に問う視点を提示した法律家なのだ。
  彼にインタビューしたCBS「60ミニッツ」の書き起こし 》 近本洋一
  https://twitter.com/you1chikamoto/status/1145911930436980736

《 「今の日本ダメなんじゃないのか?」的なことを私が言うと、「じゃあさっさと日本から出ていけばいい!」っていう勇ましい言葉が返ってくることがあるが、 そういうときは「もし私が日本から出て行ったら、日本はもっとダメになる」と返すことにしようと思う。 》 森岡正博
  https://twitter.com/Sukuitohananika/status/1145829969030856704

《 別の界隈では「転落途上国」だそうですよ。日本は。 》 毒太郎
  https://twitter.com/doqtaro/status/1145949921436037120