『マロウンは死ぬ』(閑人亭日録)

 サミュエル・ベケットマロウンは死ぬ』を、講談社『世界文学全集 第99巻 バタイユブランショベケット』1976年初版で再読。ベッドで動けない老人の妄想とも 繰り言とも言える独白が延々と続く。

《 そうだ、老いぼれの胎児、それがいまのわたしだ。白髪でなにをする力もなく、おふくろはもういかれてしまった。 》 251頁上段

《 奇妙なことだが、わたしにはもう自分の足の感覚がない、私の足はもうなんの感覚もない。 》 262頁下段

《 雨は彼の背中に打ちつけた、その音ははじめは太鼓の音に似ていたが、まもなく洗濯の、つまり洗濯物を桶のなかですすぐときのぶくぶくごぼごぼいう音に変わった、 そして彼は自分の上に落ちる雨と地面に落ちる雨の音の違いをはっきり聞き分けることができるのがおもしろかった。 》 270頁上段

 訳者高橋康也の解説は説得力がある。

《 『モロイ』において、ベケットは『ワット』のどん底を蹴って、見事なしなやかさをもって浮上する。まず、主人公の人物造形についていえば、モロイはワットよりも はるかに人間臭さを増し、道化の猥雑さと柔軟さを取り戻している。そのことはただちに言語の問題でもあって、モロイはベケットの長編の主人公として初めて(中略) 「一人称単数」で語り出す。これは重大な変化である。存在の深層で発せられる定かならざる呟きが、強い呪縛力をもった話し言葉の文体で捉えられるようになったばかり ではない。放浪のあと収容されたモロイが書きつけている放浪記がすなわちこの小説なのだが、こうして小説の構造がモロイの書く行為そのものと一致することによって、 『ワット』の構造的複雑さから脱出し、一種の自在さを獲得することができたのである。 》

《 しかし次の『マロウンは死ぬ』では、いかにもベケットらしく、前作の多様性は厳しく切りつめられている。マロウンは終始精神病院とおぼしき家の一室のベッドに ついたままで、モロイのように外の世界を生きてきた現実感をもっていない。彼は完全に言語の次元、書くという行為においてのみ生きている。何を書くか──モロイが 自己の体験について書くことができたのに比べ、マロウンはそのような自我さえもたぬ。そこで彼はサポという人物を創り、彼の人生の物語を手帳に書きつけてゆくのだが、 物語の終りで人物が死ぬのと同時にマロウンもベッドの中で鉛筆をもったまま死ぬ(らしい)。 》

 そういうことかあ。第三作『名づけえぬもの』は未所持、未読。

《 これらの作品によって、ベケットは現代小説に決定的に新しい地平を切りひらき、期せずして、あとから現れたフランスの「新しい小説家」たちから「先駆者」と 仰がれることになったのである。  》

 冷たい雨に終日降りこめられた日に合う読書。昏れかかった雨の中、買いものへ。小松菜を茹で、かぼちゃを煮る。

 ネット、うろうろ。

《 周りを見てると、専門職で成功してる人ほど多趣味で好奇心旺盛な印象がある。他分野について得た知見を、自分の分野ならこういうことだなと 変換・翻訳・応用する能力に長けているのだろう。この能力さえあればあらゆることが資料収集になる。この能力を「想像力」という 》 ヲノサトル
  https://twitter.com/wonosatoru/status/1199805437593341952

《 11/27古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸【第四章】 》 古本屋ツアー・イン・ジャパン
  http://furuhonya-tour.seesaa.net/article/471777951.html

《 チェスタトン読んでたら、彼が(当時批評家から馬鹿にされた)通俗&少年文学を擁護して「人間は耳を傾けるべき物語が…子供は理想の世界の中で虚構の人物が 縦横無尽に活躍する物語が不可欠だ。文学は贅沢品だ。だが物語は生活必需品なのだ」と書いてるのを見つけた。この贅沢品と必需品の区別は面白い 》 どう即
  https://twitter.com/pc_unko/status/1199497751739764736

《 祈りと異質な巨大芸術 平和祈念像 法王は今回も立ち寄らず 》 西日本新聞
  https://www.nishinippon.co.jp/item/n/554327.amp

《 社会から決められた役割に従って生きることしかできないから、その枠の外で自由に生きている人を危険視して叩く人が多いのかもしれないね。 》  マキエマキ@自撮り熟女
  https://twitter.com/makiemaki50/status/1199661352979009538

《 権力の座に居座り続けることだけ必死に考えて、それには成功したものの教養も哲学も無いもんだから果たすべき使命を思い付かず、夫婦で海外旅行ばっかりして、 その対価に国民の資産と国土を切り売りしている。 》 津原泰水=やすみ
  https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1199562028454576129

《 ここまできたら、最長政権じゃなくて、証拠隠滅政権として将来は記憶されるやろうなぁ 》 なかのとおる
  https://twitter.com/handainakano/status/1199835593422725120