再読『「敗者」の精神史』三(閑人亭日録)

 山口昌男『「敗者」の精神史』岩波書店1995年初版の再読を進める。昨日の「近代におけるカルチャー・センターの祖型──文化装置としての百貨店の発生(二)」の 補遺。

《 ただし、これまで読んですごいことが起こったと思ったまま、今日、パリに行ってデパートを訪れると、そのさびれ方の激しさにびっくりする人もきっと多いだろう。  》 95頁上段

 「3 軽く、そして重く生きる術──淡島椿岳・寒月父子の場合(一)」を読んだ。

《 淡島椿岳と淡島寒月、この二人の父子の名前を挙げて、両方に即座に反応を示す人は、もうほとんど現存しないのではなかろうか。 》 101頁上段

《 このライフスタイルに結びついた二つの方向、つまり一つは、自由で、個人的で、アナーキーで、見世物・パフォーマンス性を帯び、制度化を忌避する方向と、 もう一つの形式化・制度化を目ざす方向は、近代日本の芸術文化の基調をなす底流を形成した。従って、よく言われる日本画派と洋画派の抗争は、本質的な対立とは 言えない。それは、むしろ後者の方向性の中における対立と言うべきものである。 》 107頁下段

《  明治の初年、江戸の画壇は崩壊していたから、画家は職業としてほとんど成立せず制度化した美術界は存在しなかった。(中略)書家や画家は、書画会を開く以外に 自らを売り出す方法は無かった、と(内田)魯庵は言う。
  従って、椿岳のようにお大尽として暮らせるのでなければ、(川上)冬崖のように、お上に奉仕する外に方法は見出せなかった。 》 119頁下段

 この章の結びでも紹介されている明治二十二年に亡くなった淡島椿岳の辞世の句。

   今まではさまざまの事をしてみたが
      死んでみるのは之が初めて

 「4 明治大正の知的バサラ──淡島椿岳・寒月父子の場合(二)」を読んだ。

《 充実した古本屋のある都市空間は、このように時間を越えて通じる濃密な知の不思議空間の媒体となる。 》 128頁上段

 三島からは古本屋はとうに消えた。ブックオフじゃあなあ。

《 このように竹馬会は、根岸党と同様、去った習俗に対する郷愁の感傷の如く装いながら、実は藩閥の作った明治という秩序を相対化するような強い毒を含み、 成り上がり的同時代人を否定する気概に満ちた人の集まりであった。 》 144頁下段

《 坪井正五郎についてはいずれ稿を改めて論じようと思うが、ここで確かめられるのは寒月が坪井を通して、日本における人類学の誕生に立ち会っているという事実で ある。それも「趣味」という方法を踏まえてのことである。これはただの物好き、好事家、ディレッタントとは区別しなければならないであろう。或る意味ではベンヤミン の説いた蒐集家の立場にも通じるものがあった立場と言ってよい。もっとはっきり言えば、今日の職業化した人類学者の大半が失ってしまった純粋好奇心というラディカル な立場である。 》 146~147頁

《 このように寒月は融通無碍に一つの宗教から他の宗教へ移っていった。寒月にとって一つの宗教は情報の体系化であり、そのシステムを通して異文化情報を手に入れる ことの方が、信ずること、救済されることより大事であった。宗教は寒月にとってはあくまでも玩具と同列に置かれるべきもの、つまり、記号の束であり、趣味の方法の 中に囲い込まれるべきものであったのである。明治の人間のものとは思われないほど大胆にして、不敵、かつ高度に知的な態度であった。 》 161頁上段~下段

《 この親子は、二十一世紀に予想される地球に負担のかからない低エントロピー文明時代の知・芸術にたずさわる人間に、最も刺戟に富んだモデルを提供しつづけそうで ある。 》 170頁上段

 昨晩、味戸ケイコさんから電話。彼女を永く応援していた女性が亡くなった、と。彼女へは喪中葉書を投函していたが。それから来春、北海道立函館美術館での企画展に 数点出品を依頼された、と。何を出品するか相談を受ける。
  http://web.thn.jp/kbi/ajie.htm
 その後、白砂勝敏さんから電話。来年二月の個展のすり合わせ。それやこれやで調子が乱れ、読書ははかどらず。
  https://shirasuna-k.com/
 朝、昨日見つけてしまった源兵衛川最上流部のヒメツルソバを抜く。やれやれ。帰宅。ゆっくりコーヒーを淹れる。旨い。と言えばいいが、かがんだひょうしに腰を ひねった(?)らしく、痛たっ。重いものを持ったわけでもないのに~(泣)。昼過ぎまでこたつで暖まる。ほぼ回復。昼食~買いもの。無事帰宅。筋を違えただけみたい。 やれやれ。

 ネット、うろうろ。

《  「同意のない性交渉をされた者が、その事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらない振る舞いをすることは十分にあり得る」

  今回の判決で一番感心したのが裁判所が示したこの見識。これは被害者学の反映。つまり科学的見地。否定できるはずもない。 》 T.Katsumi
  https://twitter.com/tkatsumi06j/status/1208179472928624640


 《 クリスマス全然流行ってないな 》 TKO
  https://twitter.com/taitaism/status/1208356117757059072