再読『内田魯庵山脈』九(閑人亭日録)

 山口昌男内田魯庵山脈 〈失われた日本人〉発掘』晶文社2001年初版、「30 広告の現在と近い未来」を読んだ。

《 魯庵が広告ならびに宣伝に並々ならぬ関心を抱いていたということはよく知られている。 》 468頁上段

《 魯庵は広い意味で文化史という言葉が使われる遥か以前にこの言葉を使っている。今日、文化史といえば、さまざまな領域を横断して、一つの現象が異なった分野で 現れるということを指す。従って狭義の芸術史を寄せ集めたことを意味しない。広告という一現象を文化史において捉える魯庵の方法は今日の文化についての視点を 先取りしている。 》 468頁下段

《 (魯庵は西欧派の啓蒙と思われていたが、コミュニケーションの民俗学の先駆者と言ってよいほうである) 》 473頁下段

《 (ポスターがストリート・クライアーであることを看破した魯庵の慧眼はただものではなかった) 》 474頁下段

《 魯庵の批判は、図書館、博物館が、さまざまなコレクションの総体からなっていないという成立の根本理念を衝いていて鋭い。今日ではこのコレクション嫌いは 大学図書館の書物嫌いという形で各所に表れている。 》 475頁下段

《 美術館などという空間消費量の多い媒体よりもCD-ROMにでも収めればよいという考え方も成り立つだろうが、情報と芸術は空間の中で持つ意味は違うはずである。  》 477頁上段

《 岡田三郎助と橋口五葉の三越のポスターは当時も今も言及されるが、魯庵を除いてポスターという視点から批評の対象になったことはない。 》 480頁上段

《  つまり魯庵は、芸術絵画と複製技術としてのポスターを混同してはいけないという視点に立っているのである。その点で魯庵ベンヤミンの複製芸術論を先取りして いるのである。魯庵は来るべき美術を語る知について予見していた知の幻視者であったといえる。(中略)
  こうして魯庵は同時代の狭義の文学批評という分野の境域を越えて卓越した批評眼を備えた比較文化史家への鮮やかな転身を遂げつつあったのである。 》 480~481頁

《 大正時代の文人・画人は明治を支配していた上層部の堅い殻を破って緩いネットワークを形成したいたのである。(中略)今日はネットワークであると思って追って いっても、それがいつの間にか派閥、学閥というタコツボに入って消えてしまうようにできている。 》 484頁上段~下段

 「31 魯庵の「新しい女」論」を読んだ。

《 明治三十四年になって『太平洋』に寄せられた「社会百面相」では「女学者」をはじめとする女性を主人公とした小説が見られる。 》 502頁上段

 そういえば、あったなと思いだし、本棚から『社会百面相(上・下)』岩波文庫1977年3刷を抜く。上巻にあった。序文(一)の冒頭。

《 我が作の枯淡無味なるは誠に批評家先生の言の如し。左れども我は今の爛漫たる天才諸君の班たる能はざるを耻とせざるなり。 》

《 そこで魯庵は言う。中途半端な教育にまどわされて男の仕掛ける欺瞞に引っかかるな。人格を磨いて男と対等に渡り合って、自らの尊厳を認めさせることが先決問題で ある。そういう意味で若き女は目覚めなければならないというわけである。 》 505頁下段

《 ここには二つの重要な視点が示されている。一つは、明治十七、八年頃の鹿鳴館の時代の持つ、一般庶民に対する啓蒙の意味であり、もう一つは、「沃土を残して去る」 といった知的ソフィスケーションの滲透である。それがなければその後の日本は西南の役におけるように内乱の繰り返しに明け暮れたであろうという視点は大切である。 》  510頁上段~下段

 「32 「青踏」運動、きのうの夢」を読んだ。

《 魯庵の個人を単位とした事象についての洞察は限りなく鋭い。そしてそれをアイロニーを混ぜて語る語り口は限りなく冴えわたる。しかしそれが冴えるのは自虐的な形で 日本に対してだけであって、西欧に対しては結局「敵(かな)わない」というところに落ち着く。(中略)結局魯庵の西欧のイメージが明治以来の西欧の知識の吸収=教養の 形成にとらわれていたという事実と無関係ではなかろう。 》 520-521頁

《 西欧の探求、博物誌史的自己実現のシステムそのものが他文明圧倒の側面を持つ方法である可能性についての考察を怠ってはならない。時代的制約もあるとはいえ 魯庵が西欧にやや点が甘いというのは、日本の女に対する充分鋭い洞察の眼が必ずしも西欧文明に対しては行き届いていないという点である。つまり、自国の問題に対しては 「質」の面から鋭く捉え、西欧に対しては「量」の面から畏敬の念を示すところに、二十世紀共通の問題を魯庵も抱えているということになる。 》 522頁上段

 昼前、白砂勝敏さんへ昨日依頼された原稿、題して「野生の自然の送りモノ」をメールで送信。夕方、彼から電話。肩書の「美術愛好者」を代えて欲しいというので、 「元K美術館館長」に。

 ネット、うろうろ。

《 3冊すべて読んだことのある人はどれくらいいるのでしょう。全部読んだ方はリツイートを是非! 》 幻想系古本屋 Doris (古書ドリス)
  https://twitter.com/info_doris/status/1213668935066767360

 ここの画像でもっていないのは、『ドグラ・マグラ』角川文庫、『黒死館殺人事件』復刻版。載っていなくてもっているのは『ドグラ・マグラ』現代教養文庫1976年、 『黒死館殺人事件河出文庫2008年。当然既読。

《 初出勤日から、名刺交換会とは嫌すぎる。早く帰りたい…… 》 黒白
  https://twitter.com/MadHatter1933/status/1214138104124043264

《 川勝平太・静岡知事「リニアか南アルプスかといえば、迷わず」 》 毎日新聞
  https://mainichi.jp/articles/20200104/k00/00m/040/045000c

《  アメリカ人が戦争をしたいなんて思ってないけど、トランプのせいで戦争になる。
  日本人も戦争をしたいなんて思ってないのに、安倍晋三のせいで戦争に巻き込まれる。 》 yutaka
  https://twitter.com/yumi_yutaka/status/1213486697079439363

《 人間が本格的に宇宙に進出したとして、当然四季が無いわけだから、俳句はどうなってしまうんだろうか。 》 新井五差路
  https://twitter.com/araigosaro/status/1214124718095093763