再読『内田魯庵山脈』十(閑人亭日録)

 山口昌男内田魯庵山脈 〈失われた日本人〉発掘』晶文社2001年初版、「33 『本屋風情」遺聞」を読んだ。

《 引用の後半は、魯庵の一出版人に示した誠実な対応といってもよい。これだけなら、別に珍しくもない、ありふれたことである。ところが、この記述が柳田国男の 岡茂雄に対する仕打ちと比較せられるとき、そして対比されるとき、成り上がり役人、つまりピラミッドの頂点に近いところに辿りついた人物と、終生市井の生活から 離れることがなかった人物との相違がありありと見えてくる。 》 534上段

 以下、出版人岡茂雄に対する「本屋風情」という蔑辞が語られる。

《 柳田(国男)の折口(信夫)に対するいじめも相当のものである。ときには折口の、柳田の及ばない古代様式の短歌に対するやっかみ混じりの面罵はひどいもので、 「君、あんなものは短歌じゃないよ」とまで言った。 》 536頁下段

《 このような状態の混沌ともいうべき民俗学を比較民俗学も含めて学問の存在の根拠としていたのは南方熊楠であった。熊楠は柳田と違って性の問題を研究の対象から 外さなかった。女色、男色とも熊楠はこれらを彼の民俗学の対象とした。従って宮武外骨とも別け隔てなく付き合った柳田はこれを忌み嫌って、外骨とはなるべく 付き合わないようにといった趣旨の手紙を送って熊楠に圧力をかけてが、熊楠は一向意に介しなかった。 》 539頁下段

《 柳田は性と趣味といった民俗学を通俗性に導く恐れのあるものは本質的に嫌う傾向があった。ここが柳田と魯庵が、まるで違うところであった。 》 430頁上段

《 私が柳田国男と初めて会ったのは昭和三十七年の八月のことであった。(中略)柳田は必ずしも性民俗学を排除していたわけではないことはこのエピソードで 確かめられるだろう。 》 540-541頁

 「34 桁をはずれた彗星」を読んだ。

《 日本近代の面白さの一つは、数々の新しがり屋が出て先人の業績否定を行ってきたが、最も鋭い感性の持ち主には一貫した趣向が持ちつづけられているということである 。その例がルイーズ・ブルックスである。ルイーズ・ブルックスについては晩年の淡島寒月がすでに明治年間に書いた文章において触れている。それに魯庵がモダン・ガール の精粋として触れ、大岡昇平が晩年に一冊の本を出している。小林秀雄川上徹太郎にはこの粋さが欠けており、骨董に埋没したとはいえ、映像の世界のモダニズムに この二人の批評はついには無縁であった。 》 554頁

《 魯庵のモダンに対する考え方は近代日本の屋台骨の貧弱さという点にかかっている。新思想、新学問、図書館に対する理解の低さ、女性解放運動、蒐集行為の不徹底、 これらすべては魯庵が不断に論じていた根において繋がる問題であったのだ。 》 555頁上段

 「35 亜細亜図書館建設の理想、「36 若き友人たちの追悼」を読んだ。「37 結びに──切れることのない糸」を読んだ。その結び。

《 うさんくさく見られる随筆スタイルこそ、日本文学の定形からいちはやく離れて、モダン・アートの陣営に加わる魯庵独自のやり方であり、これこそ、日本近代文学研究 のなかなか言い当てられなかった方法なのである。本書は、そういった魯庵=モダンの像を、近代文学史の中から取り出す試みでもあった。 》 504頁

 なんか種村季弘氏の著作を連想させる。氏の発言で印象に残っている、体系を作るつもりはない、といったことの先駆者であるような内田魯庵だ。三部作再読終了。ふう。

 ネット、いろいろ。

《 1903年の今日は日本の小説家、エッセイストの森茉莉が生まれた日です。食べ物エッセイの「貧乏サヴァラン」はとても面白いです。森鴎外の長女でお嬢様として 育てられ、後に貧乏になりました。 》 愛書家日誌
  https://twitter.com/aishokyo/status/1214323275788099584

《  俺はもう10年以上階段や路地の写真撮るときに位置情報埋め込んでいて数十万枚あるのだが、死ぬ前にすべてパブリックドメインに移すつもりだ。 百年後、千年後にかつてここに階段という美があったことを伝えるために。
  2019年の階段写真四選、佐渡佐多岬那覇、川崎 》 階段巡りツイッター
  https://twitter.com/kaidanmeguri/status/1214140547171962882

《 「アートを大衆にひろめる」というお題目の元、いかにくだらないビジネスの食いものにされてるか、冷静に考えた方がいいよ。 そもそもアートが必要な人なんて、世の中にそんなにいるの?本当にアートを必要としてる人にちゃんと届くだけで、アートは成立しますよ。 》 黒瀬陽平
  https://twitter.com/kaichoo/status/1213810210864656384

《 対談:ホー・ツーニェン×浅田彰 《旅館アポリア》をめぐって 》 REALKYOTO
  http://realkyoto.jp/article/ho-tzu-nyen_asada/

《 「私の手で憲法を変えるという考えは揺るがない」。(総理の年頭会見)
  憲法のなんたるかを全くわかっていない。「私の手で」勝手に変えてもらったら困るんです。
  憲法はあなたの手を縛るためにあるのです。
  憲法をもう一度読み直し顔を洗って出直しなさい。 》 市田忠義
  https://twitter.com/ichida_t/status/1214165574797815810

《 安倍首相はアメリカとイランの橋渡しができる世界で唯一の存在だと自称していたのではないのか。にもかかわらず、アメリカともイランとも言わずに「中東地域」 と抽象化し、トランプに対して自制を呼びかけるでもなく「すべての関係者に外交努力を求める」と他人事感丸出し。この逃げ足は一体何なのか。 》 ゆみ
  https://twitter.com/yumidesu_4649/status/1214175545027522561