『夢想の研究』二(閑人亭日録)

 瀬戸川猛資『夢想の研究 活字と映画の想像力』創元ライブラリー1999年初版を読了。いやあ面白かった。最適な消夏法だ。付箋が林立している。久しぶりに文体の魅力を 味わった。少し引用。

《 岩波文庫なんて下らない、といっているのは、学問なんて下らないといっているのに等しいわけだ。確かに学問は億劫なものだし、下らないものかもしれないけれども、 それはきちんと学問を積んできた人だけがいう権利があることで、ガクのない人間が叫んでも見苦しいだけである。だいたいそういう人に限って、ある年齢に達すると学問に 憧れるようになり、カルチャーセンターやシルバー大学へ通ったりするようになるのだ。そんな所へお金を払うくらいなら、岩波文庫のほうが遥かに安上がりで、得では ないか。 》 「9 異なる文化」 82頁

《 このような本嫌い・学問嫌いたちによって作られたハリウッド映画だったが、多くの本好きや知的な人びとを魅惑し、専門の研究家や映画学徒までをも生み出している。 それは、彼らの作り出した物語が、学問では捉えきれない、”人の世の真理”を教えてくれることがあるからだろう。物語の世界の尋常ならざる力は、こういうところにも 潜んでいると思うのである。 》 「9 異なる文化」 88頁

《 SFの長い歴史は、もっと強烈な驚きに満ちた世界を、何度も生み出してきている。こと想像力の表現方法に関する限り、活字は無敵の力を秘めているのだ。 》  「10 センス・オブ・ワンダー」 96頁

《 本物の科学至上主義者は、非現実的な仮定の物語などには見向きもしない。彼らが興味を持つのは、現実に存在する論理性と整合性、その間から生じてくるテクノロジー のみである。割り切れるもの、まとめられるものを何よりも愛する彼らは、どのような事柄にも論理性・整合性を見つけ出そうとして実験や計算を重ねる。それがどうしても 見つけられない場合は、”不確定性の原理”といった形で設定したりする。(中略)
  こうした神をも恐れぬ科学至上主義者を中心にして、二十世紀の文明は発達してきた。 》 「11 破滅の愉しみ」 103-104頁

《 何を言いたいのかといえが、本格ミステリというものは実はさまざまな可能性を秘めた奥の深いものなのだ、ということなのである。(中略)別のアイデアから新しい 切り口を入れられる時、この形式は驚くべき力を発揮する。それが理解できず、本格物はただのパズルだから下らないとか、映画にしたって仕様がないなどと言っている 人間は、それこそただの鈍感である。 》 「15 硝子玉とコルク玉」 139頁

《 「事実は小説よりも奇なり」などというけれど、現実は時に、われわれの貧相な想像力を嘲笑するほど劇的なドラマを仕掛けてくることがある。それは夢想を尊ぶ者が、 まず何よりも先にわきまえておかなければならない大切な事柄なのである。 》 「18 裏切る現実」 162頁

《 論争の本質とは、言葉を換えれば、そもそもこういう論争がどうして生じてきたのか、ということである。それが見えてきたところで、論点は一気に絞り込まれ、 『文学の研究とは何か』の次のような一節に到達する。

   言ふまでもないことだが、一般に文学研究には想像力が不可欠だし、
   文献の乏しさによつて制約されてゐる場合にはなほさらだらう。
   それなのに今の日本では、想像力と仮設(ママ)とを排撃する
   風潮が支配的で、しかもそれは、研究者たちの怠慢を正当化する
   口実に使はれてゐるのである。 》(丸谷才一の文、以下略) 「21 太古の祭り」 181頁

《 そうなのである。イエスは十二月二十五日にお生まれになった、などということは聖書には一行たりとも書かれていないのである。 》 「21 太古の祭り」 184頁

《 あまりにも突飛なので憚(はばか)られるのだが、それは「理論」とはじつは「物語」と同義のものではないか、ということである。 》 「22 彼方の物語」 194頁

《 ただし、この「物語」は、われわれの知っている物語とはおよそかけ離れたものだ。文学の物語は、文学的感動やストーリーのおもしろさといった”美”を目ざして 書かれる。映像の物語も、劇的感動や誌的映像美を目指して作られる。ところが、この「物語」は「論理性」と「整合性」という”美”を目指して生み出され、美しい文章や 映像の代わりに記号や数式、さらには「三百億光年」「宇宙定数」「くりこみ可能な無限」といった奇怪な言葉が使われる。それはわれわれには見えないが、或る種の才能を 持った人にははっきり見える「彼方の物語」なのである。 》 「22 彼方の物語」 195頁

《 どうにも困った人たちではある。映画というのは虚構であり虚像であるからして、そこで説かれる”善”は、すべて偽善に決まっている。”悪”もまた偽悪でしかない。 そんなこともわからないで言っているのだとすれば、驚くべき単細胞というしかないし、わかって言っているのだとすれば、それこそ「偽善」的といえるだろう。 》  「25 問題作の作り方」 220頁

《 増大し発展をとげる映像メディアと、衰退しつつある活字メディア。にもかかわらず、活字のほうが高いステイタスを誇っているように見えるのは、過去の歴史的基盤が 大きな力になっているからでる。しかし、一千万とも二千万とも推測されるマンガ人間や映像人間が、或る時点で、民族意識に目覚めたらどうか。なぜマンガ家や アニメ作家に文化勲章をやらないのか、どうして新聞をマンガと写真だけにしてしまわないのか、学校の授業は教科書や参考書をすべて廃止しビデオとコンピュータを使って やってはどうか、などと言いだしたら、それが実現に向かわないという保証はどこにもない。 》 「26 本の燃える日」 254頁

 夏目漱石吾輩は猫である』、『オーウェル評論集』岩波文庫など、再読したくなった。丸谷才一忠臣蔵とは何か』、E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』、 ナサナエル・ホーソーン『人面の大岩』などなど本棚にある、読みたくなる。読みたい本が目白押し。困ったことだ。
 丸谷才一の解説がじつに見事。元本は1993年に早川書房から出た。索引がしっかりしている。快著だ。

 きょうも猛暑日
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 ネット、うろうろ。

《 来年のオリンピックなんか絶対できっこないのに誰も止めようとしないのって、太平洋戦争みたいだな。 》 竹熊健太郎《地球人》
https://twitter.com/kentaro666/status/1295459004089434112

《 谷査恵子さんが日本に帰ってきたそうなので、森友事件の真相を話していただきましょう。 》 前川喜平(右傾化を深く憂慮する一市民)
https://twitter.com/brahmslover/status/1295773966901026818

《 麻生太郎さんがひと月の間、Amazonの倉庫で働きながら、同年代の同僚の平均収入で生活するってリアリティ番組が見たいです。 》 本屋プラグヤシの木書籍みかん
https://twitter.com/books_plug/status/1295612546741747720

《 「147日間連続公務」って

  スケジュール管理がなってないって話じゃ

  しかも ”激務” のわりに、成果に乏しく 》 buu
https://twitter.com/buu34/status/1295608917448257537

《 (ま、実際は、中身スッカスカなんですけどね) 》 buu
https://twitter.com/buu34/status/1295609105504075777

《 体調が悪いと喧伝させて批判を封じ込めようとする安倍

  高齢でいまさら手の施しようがないと批判する気を失わせる麻生と二階

  性格が悪くて手の施しようがないと批判を諦めさせる菅

  権力者たちへの思いやりと気遣いに富んだタレントやメディアの人々 》 中野晃一
https://twitter.com/knakano1970/status/1295871182298738688

《 自民党憲法改正草案において、20日以内に内閣は国会を召集されなければならない、としている。
  長年与党を務めた自民党20日以内としているということは、実務に照らし、「20日」もあれば、召集は十分に可能だということです。
  20日目の今日も開かれる気配がないのは憲法違反する気満々ということ 》 弁護士 小口 幸人
https://twitter.com/oguchilaw/status/1295885409814114306

《 ブラジルの最北端はブラジルの最南端よりもカナダに近いという指摘。 https://bit.ly/319oQ7f 意外性があるため反響を得ている。 距離が不正確なメルカトル図法の世界地図での見え方も、実は大差がない。したがって、寒冷なカナダと暑いブラジルというような国のイメージが、意外性の主因と思われる。  》 Oguchi T/小口 高
https://twitter.com/ogugeo/status/1296028020679929856