『ことばの政治学』五(閑人亭日録)

 永川玲二『ことばの政治学筑摩書房1979年初版を読了。

《 子供のころからアルファベットだけを読んだり書いたりしながら暮らしてきたひとびとにとって、漢字は興味津々たるおもちゃであるらしい。詩人エズラ・パウンドは 自分の代表作のなかに、わざわざ墨で書いた漢字をたくさん活版で刷りこんでいたし、かつて日本駐在のフランス大使だったポール・クローデルはひとつの漢字に想をえて 深遠きわまる詩句を書いた。「水のうえの一点、それが永遠である」と。(残念ながら、これは誤解の産物である。たくましい彼の詩的想像力が「氷」と「水」とを 取りちがえてしまった)。 》 206頁

《 クローデルがもうすこし漢字を勉強していたら書道の「永字八法」を踏まえて、こんな詩句を書いたかもしれない。「四方八方に通じるもの、それこそが永遠である」と。  》 208頁

《 日本のカタカナ語の有利さは、かなりの点まで現地音主義が尊重できることだ。英語の歴史書を読んでいると、アンリ二世もハインリッヒ二世もエンリーケ二世もみんな ヘンリーに変えてあって、なにがなんだかわからなくなることがある。 》 213頁

《 長襦袢などいう単語は、どうみても、いかにも日本情緒ゆたかな古い日本語の感じである。〔中略〕
  ところが、これがポルトガル語「ジバン(胴衣)」からきたものだという。〔中略〕いまをときめくジーパンなども──おそらくはジーパン世代がみんな老齢に達した ころ──「爺袢」とでもかたちを変え、キモノ以上に日本的な日本の衣装になるのかもしれない。 》 216頁

《 戦後の小説家のなかでもっとも多角的に、徹底的に文体の変革をくわだて、現在もそれをつづけているのは野間宏氏だろう。彼は、さまざまな系統のヨーロッパ文体の 富を、同時にいくつもの次元で盗みとろうとしている。〔中略〕しかも最近の彼は可能なかぎり平明な日本語でそれを表現しようとしている。 》 241-242頁

《 ただ、その文章にはしばしば厚い皮膜におおわれたようなもどかしさ、鈍さがある。それも「暗い絵」の冒頭のように、ありったけの言葉をぶっつけ使いはたしてまだ 書きつくせないという熱っぽいもどかしさではない。塗りかさねた言葉のなかにあまり働いていない部分があって、不必要な濁りが出たという感じにちかい。 》 242頁

《 もちろんそれは単純な添削で改良できるような欠点ではない。彼の文体の骨の太さや重さのなかに、それは深くくいこんでいる。 》 242頁

《 なぜなら、西欧的な観念の世界と日本の日常語の世界と、同時にその両面で彼ほど貪欲に生きてきた作家はいない。象徴派のレトリックとマルクシズムの論理とが彼の ペン軸のひとつひとつの動きに複雑な振動を与える。 》 243頁

 野間宏の短篇『暗い絵』に驚き、大長編『青年の環』全五巻河出書房1966年~河出書房新社1971年を二度熱読した者にとっては、じつに嬉しい評言だ。上記文章は1964年。 『青年の環』の発表前だが、的を射ている。と、記すのも、この『青年の環』の評で納得したものに出合わなかったから。が、これでほっ。どの文章も全く色褪せていない。 今もって新鮮な課題を与えている。ツイッターの書き込みで気になって古本を取り寄せた。読んでよかった。(ひとつ重大な誤りを犯して密かに訂正。氷→永)。 それはさておき。最後のエッセイ「〈ほんやく文化〉の悲惨と栄光」で触れられているジェイムズ・ジョイスユリシーズ』全三巻集英社1996年~1997年を読まなくてはなあ。 第三巻の訳者紹介には”『ことばの政治学』は熱烈な愛読者のある幻の名著だったが、今は岩波書店の同時代ライブラリーに収められている。”。

 ネット、うろうろ。

《 そういう地点から見ると、研究者があるマイナーな文化を、「アート」としても評価されてきたから研究対象にする、というのはかなり古めかしく思える。 「アート」とは呼ばれず注目もされず自ら名乗りもしないものを、この世界の中にどのように位置付けるか?という研究ならば興味は湧くかもしれない。 》 大野左紀子
https://twitter.com/anatatachi_ohno/status/1327784699016593410

《 さすが自助の菅政権。一貫している。

  GoTo使うかは「皆さんの判断だ」西村経済再生相:朝日新聞デジタル 》 ささきりょう
https://twitter.com/ssk_ryo/status/1327450962127011840

《 たかがGoToで「経済」が「回」ったりはせんよ。だったら不況の国なんか無い。節約して更に次なる波に備えた方が「経済」的。 》 津原泰水
https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1327525045527187457

《 「コロナでもサンタは来るかと聞く子ども」子どもの健気さと世の切なさに唸っている。仲畑流万能川柳だ。昨日の秀逸も上手かった。「弔辞では祝辞ほどには嘘言わぬ」 だ。一昨日は「同窓会美人薄命禁句です」で、笑いつつ納得した。なるほど高齢化社会だと。コロナ禍でも創作は絶好調と確認する日々だ。 》 立川談四楼
https://twitter.com/Dgoutokuji/status/1327458381611765765

《 「事前の打ち合わせと違う」。政治家への質問事項は事前に打ち合わせなどしないのが、ジャーナリズムの国際的な「常識」。それで答えられる能力を持つ人だけが 政治家として残る。日本は違うのかな?

  総理、怒っていますよ…官邸からNHKへの「クレーム電話」その驚きの中身 》 茂木健一郎
https://twitter.com/kenichiromogi/status/1327759675886997505

《 来年の衆院選の直前はネットはフェイクニュースの嵐となるだろう。保守系フェイクニュースサイトの拡散力に対抗できなければ野党はまた負けるだろう。
  「日本でも大量拡散したバイデン氏の「不正」めぐる情報。まとめサイトや、新興宗教系メディアが影響力か 》 森岡正博
https://twitter.com/Sukuitohananika/status/1327620476969963523

《 選挙に行かなかったり、高等遊民ぶって政治的発言を避けてきたツケを、信じられない程の馬鹿や守銭奴がつくったルールに従い、不機嫌な顔をして生きることで 返している。未来なら変えられるから、若い人達は同じ道を歩まないでほしい。 》 津原泰水
https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1327637117124546560