『なやまない』(閑人亭日録)

 書庫で本を何気なく眺めていたら、田中小実昌『なやまない』福武書店一九八八年二月一五日 第一刷発行が目に入った。こんな本、あるのか。いつ買ったのか、と 不思議に思いながら題名に惹かれて読んでみた。五篇を収録。最初の一篇は「西田経」。冒頭一行から惹き込まれた。

《 西田幾多郎の「哲学の根本問題」のおしまいの総論は、哲学は、いまだかつて一度も真に行為的自己の立場にたって考えられたことがないのではないか、というふうに 書きだしている。 》 9頁

《 私が考える故に私があるのではなく、私が行為するが故に私があるのである。 》 9頁

 こりゃ今、読むしかない。

《 それはともかく、モームの「アシェンデン」ぐらいおもしろい連作短篇ははないとおもってたが、この「魔術師」は読めなかった。 》 28頁

 『アシェンデン』岩波文庫はもっている。未読。ジョン・ファウルズ『魔術師』河出書房は面白かった。再読したい。

《 森林植物園の坂道は、やがて、ほそい流れのよこをくだっていく。山から涌きであた水だろうか。透明な水がながれ、水の底のこまかな砂が、ときおりふわっと ふきあがる。べつにメダカが砂をさわしたり、なにかの小動物がいるわkではあるまい。水とちいさな流れと砂の、かろやかな自由なうごき、意思も規正もないところには 自由もない。ふつう考えられてるようだが、はたしてそうだろうか。水や砂など意思をもたない(たぶん)無機物のうごきを自由(!)と見るのは、ただ見るニンゲンの 感じだけで、自由はニンゲンの側のものと言われるだろうか。でも、この水とちいさな流れと砂のうごきは、自由! と自由の実在をしめしているみたいだ。 》 19-30頁

《 しかし、なにかをさがしてるんではなくて、さがしてることもあるのではないか。哲学には、そんなことがあるのではないか、とたのしみみたいに、ぼくは考えていた。 だって、諸科学は研究の対称をもってるが、哲学は対象としてたてられたものも(いや、対象としてたてられないことこそ)ときあかそうとしてきた。ときあかす、という のがそれこそ主知主義ならば、いっしょに生き、ともに身を啓(ひら)いていこうとした。さがす相手(対象)はたてないで、とにかくさがす。対象はないのだから、 主観客観もわかれないまま、また、さがすということもなしに、たえずうごき、流れそのものになって(というのはベルグソンふうか)……西田幾多郎の初期のころの 純粋経験はそんなところかもしれない。 》 33頁

《 ただ、あとからあとから、波はよこに長くまきこんでくる。それが海いちめんにだ。あとからあとから……なんと無意味なことだろう。 》 35頁

    冬の波冬の波止場に来て返す  加藤郁乎

 つづく「なやまない」を読んだ。冒頭。

《 神戸の三宮の古本屋で西田幾多郎「哲学の根本問題」を買って、旅行のあいだも、東京にかえってからも、毎日読んでいたが、ぼくにはお経をきいているようだった。  》 49頁

《 みんなが言うように、西田幾多郎は独自の考えをふかめていったひとだろう。だが、ほかの哲学者のこともよく理解していたのではないか。このことと独自の考えを ふかめることとは、相反するみたいだが、そうではない。 》 57頁

《 西田幾多郎も書きながら考えをふかめ、これも書いとかなきゃいけない、あれともつながりがある、とあとからおしよせる波みたいに考えては書いたのか。 》 67頁

《 自己の根底に矛盾がある。われわれは矛盾的存在なのだ。これはたいへんなことではないだろうか。
  これまでの哲学の共通の前提であった主語的論理主義の立場から述語的論理主義の立場への転換なんてことよりも、もっととんでもない転換ではないか。いや、転換とも 言えないかもしれない。
  くりかえすが、根底に自己矛盾があるような論理はない。そんなものは論理ではない。 》 89頁

《 その場合、矛盾的存在でも、その思考が矛盾したり、まちがってたりしてはこまるのではないか。たぶん、矛盾的存在と、思考が矛盾するのは、ちがうのだろうが、 わからない。 》 90頁

 わたしも、わからない。こんなしちめんどうくさい論題でなやみたくない。それにしても、この二篇が西田幾多郎論とは。中村雄二郎の著作が参照されている。 再読しようと思っていた。

ネット、うろうろ。

《 池内紀『亡き人へのレクイエム』(みすず書房) 書き手:原 武史 》 ALLREVIEWS
https://allreviews.jp/review/3743

 月刊雑誌『ひととき』ウェッジ2013年5月号、特集「夏前に富士の麓めぐり」池内紀の取材で、氏を源兵衛川を案内した。30頁には氏と私の写真。結び。

《 源兵衛川は、三島市街を抜けていく。広小路界隈は旧色町のなごりをとどめており、そちらの分類学も気になったが、昼のひなかのこと、心をのこして素通り。いたずら 坊主がそのまま大人になったような人のお尻にくっついて川辺をゆるゆると下っていった。 》

《 ❣️❓ 》 那須どうぶつ王国ネットショップ【 公式 】
https://twitter.com/Nas_anikinShop/status/1564410485549588481

《 統一教会への「歯止め」を決壊させた安倍元首相
  岸田政権は教団との依存関係を解消できるか 》 東洋経済ONLINE
https://toyokeizai.net/articles/-/613877

《 時の首相である安倍晋三が率先して霊感商法の広告塔をつとめ、数え切れないほどの日本国民を騙して大切な財産を巻き上げて韓国へ送り続けて来たのに、 その悪の巣窟とも言える自民党が「霊感商法検討会」を開催って、加害者が集まって何するわけ?普通は統一教会と関係ない第三者機関の仕事じゃないの? 》 きっこ
https://twitter.com/kikko_no_blog/status/1564261505280851968

《 憲法を擁護すべき立場にありながら
  国法を自ら捩じ曲げ
  疑惑まみれの元首相を
  なぜに国葬をもって
  弔慰しなければならないのか

  塚本邦雄は歌った

  一月十日 藍色に晴れヴエルレーヌの埋葬費用九百フラン 》 福島泰樹
https://twitter.com/yasukizekkyo/status/1563367389747879942