人生と審美眼の賭け(閑人亭日録)

 十代の半ばだったろうか、私設の図書室を夢見た。好きな本だけを集め、壁の床から天井までの棚に本を並べた図書室。今の住処は夢の実現と言える極私的偏愛本図書室。
 二十代、店の休みに東京などの美術館へ行った。美術が好きならば、とりあえずは名作、傑作と言われる作品だけを見ようと、画廊へは行かずに美術館を巡った。なぜこの作品が良いのかわからないことが多々あったが、いつかわかるだろうと、それはそれとして見ておいた。
 三十代、1985年、味戸ケイコさんの初個展(東京)へ行った。二点を購入。同じころ、北一明の個展へ足を運んだ。雷光釉斜傾彫文筒茶碗という名だったか、気に入って初めて購入。手紙の遣り取りをしていたからか、お安くしてくれた。絵も茶碗も今も気に入っている。
 その他にジャズをはじめとする音楽鑑賞にはまり、LPレコードからCD、音楽カセットテープまで気になる音源は、東京の輸入レコード店で買った。レコード店は新宿、渋谷、下北沢、六本木などにあったが、すべて無くなった。よく通ったライヴ・ハウスも。
 こう書いてくると、私には蒐集癖があるようだ。本と音楽の蒐集当初は、専門雑誌の記事を読んで知識を蓄え、これ!という商品を買っていた。が、味戸ケイコと北一明は、購入の参考になる記述には全く出合わなかった。今にして思えば、自分の眼力(好きか、良いか)を恃(たの)んで作品を購入した。思い返すと、じつにスリリング、ヒヤヒヤモノだった。本やレコードと違ってお値段が十万、百万単位。若さゆえの無謀な散財? まあ、散財というならK美術館を自前の資金で作ったことだろう。ただの蒐集家、コレクターで終わるのはイヤだった。展示してこそ、の賭け。何の賭けなのか。人生と審美眼の賭け。
 今年、救急搬送~入院を経て、自宅療養、恢復途上の今、来し方、行く末を思う。あと何年元気か。何をするか。何をしないか。

 URGT-B(ウラゲツブログ)「注目文庫の既刊と新刊(主に2024年4月~6月)」には気になる本がズラリ。
  https://urag.exblog.jp/242214622/
 『サラゴサ手稿』ヤン・ポトツキ(著)は画像左端の本をもっているけど。読もうと思っているうちに完全版が出版されたり、また別ヴァージョンの本が出たり。どうすりゃいいのさ、この私。