”良識に反する”もの(閑人亭日録)

 やなせたかしの人気マンガ『アンパンマン』は、発表された当初から幼稚園児には大人気だったが、幼稚園の先生たちからは大顰蹙を買ったといわれる。「アンパンマンの顔をちぎってしまうなんて何て残酷な。子どもには悪影響だ」と悪評さくさくだったと聞く。それが数年経つとその人間的な温かさと包容力で、大人にも受け入れられるようになった、と聞く。伝聞でしか書けないが、最近の人気を見るにつけ、当初良識に反するものと軽蔑されても、時代が変われば高い評価に転じる。『アンパンマン』がその好例。
 絵画でも実例はうんざりするほど・・・はないか。まあ、マネ『オランピア https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%A2_(%E7%B5%B5%E7%94%BB)
 二十世紀初頭のピカソアルビニョンの娘たち』
 https://artmuseum.jpn.org/mu_avinyon.html
 が、有名(勇名)か。”良識に反する”ものに官能(エロ)小説がある。その筆頭は団鬼六だろう。彼のSM(サド・マゾ)緊縛小説は、”良識ある”人たちから顰蹙を買い、毛嫌いされている、と聞く。私は『花と蛇』など何篇かを読んでいる。じつにエロくて面白い。団鬼六の緊縛小説の女主人公は高貴な婦人、深窓の令嬢ら。不本意にも荒縄で縛られ、辱められて、初めて自らの官能・性の快楽を知り、深~い快楽に溺れてゆく。美しい女性を緊縛し凌辱するヤクザなゲス野郎下郎どもは、見方を反転すれば、女王様王女様がご経験されたことのない、性の深い快楽を知るためにご奉仕する召使い、使用人になる。地獄から極楽へ。地極楽。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%A3%E9%AC%BC%E5%85%AD
 いつだったか、知人の店で売れっ子官能小説家の綺羅光さんと談笑したとき、彼は、団鬼六を古い世代の作家だとみなしていた。では、と綺羅光さんの官能小説を読んでみた。うーん、文章表現が違う。私は古い人間だなあ、と思った。綺羅光さんが先達として評価していた川本耕次さんも、同様な印象。
 はてさて、ある官能小説が「文学」として認知、評価される時がくるだろうか? 作品を読み込んでいないので何とも予想がつかない。映像ではブルー・フィルム~ピンク映画~エロ・ビデオ~インター・ネットのポルノ映像と変化してきたが、こちらも一般人(門外漢)なので予想もできない。あるかな?と予想し期待するのは、どの分野でもそうだが、お宝発掘。何が面白いかわからぬが、どの分野にも発見を待っているお宝があるだろうと思う。絵画のヨハネス・フェルメール、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールのように。
 膨大な美術作品にはまだまだ知られていないお宝(の候補)がどこかに埋もれているだろう。制作当時には評価もされず、忘却されたままになっている無名作家の作品・・・。また、新しい作品にも、ほとんど知られずにひっそりと隠れている作品がある・・・はず。探索はこれからも続く。ただ、それを発見しても、評価され、世間に知られるまでには長い歳月が待っている。