猛暑を逃れて『王朝百首』三(閑人亭日録)

 食器をかたづけ、浴室を洗い、洗濯物を干して一休み。冷えたコーヒー&ミルクを味わう。美味しい。はてさて、設定室温28℃の部屋でゆっくり塚本邦雄『王朝百首』後半を開くとするか。

 50 秋きぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる
                    藤原敏行(ふじわらのとしゆき)

 この前は外したが、この一首が目に飛び込んできた。

 54 煙こそ立つとも見えね人知れず恋に焦がるる秋と知らなむ
                   伊勢大輔(いせのたいふ)

 55 おぼつかななにし来つらむ紅葉(もみち)見に霧のかくせる山のふもとに
                          小大君(こだいのきみ)

 60 思ひ出づやひとめながらも山里の水と月との秋の夕暮
               清原元輔(きよはらのもとすけ)

 61 鳴く鹿のこゑにめざめてしのぶかな見はてぬ夢の秋のおもひを
                大僧正慈円(だいそうじやうじゑん)

 64 かぎりある秋の夜の間も明けやらずなほ霧ふかき窓のともしび
                 藤原隆祐(ふじわらのたかすけ)

 65 はかなさをわが身のうへによそふればたもとにかかる秋の夕露
           待賢門院堀河(たいけんもんいんほりかは)

 68 世の中はいさともいさや風の音(おと)は秋に秋そふここちこそすれ
                            伊勢(いせ)

 71 あきかぜのいたりいたらぬ袖はあらじただわれからの露のゆふぐれ
                     鴨長明(かものちやうめい)

 75 影をだに見せず紅葉(もみぢ)は散りにけり水底にさへ波風や吹く
                凡河内躬恒(おほしかうちのみつね)

 76 さびしさや思ひ弱ると月見ればこころの底ぞ秋深くなる
              藤原良経(ふじわらのよしつね)


 79 春日野(かすがの)の若紫のすりごろもしのぶみだれかぎりしられず
                  在原業平(ありはらのなりひら)

 83 さ夜ふけて蘆のすゑ越す浦風にあはれ打ちそふ波の音かな
                        肥後(ひご)

 87 誰ぞこの昔を恋ふるわが宿に時雨降らする空のたびびと
              藤原道長(ふじはらのみちなが)

 88 消えわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしのもりの下露
                 藤原定家(ふじはらのさだいへ)

 90 天の原空さへ冱(さ)えやまさるらむ冰と見ゆる冬の夜の月
                  恵慶法師(ゑぎやうほふし)

 99 儚くてこよひ明けなば行く年の思ひ出もなき春にや逢はなむ
                  源実朝(みなもとのさねとも)

 「をはりに」から。

《 私はこの王朝百首を、異論を承知の上で、あくまで現代人の眼で選び、鑑賞した。権威の座を數世紀にわたつて獨占した趣の百人一首にことごとく反撥を示した。私の擇びこそ、古歌の眞の美しさを傳へるものと信じての試みに他ならぬ。(引用者・略)
  さらに言へばこの百首は譯(やく)も解説も蛇足であり、任意の時、任意の作品を、自由に吟誦して樂しむのが最上の鑑賞である。(引用者・略)さうして、歌自體のうつくしさに陶然とすることのできる讀者には、もはや作者名さへ無用である。 》 423-424頁

 和歌だけを読みました。
 猛暑日の上に酷暑日(40℃)があるとは。静岡市。設定室温を29℃に上げる。しばし午睡。