某単行本のカット絵に使われなかった、縦10センチ横5センチほどの黒地に白い描線で、軽くステップを踏む天使を連想させる姿が描かれた簡明な絵を、三十年あまり前、現代美術家の大坪美穂さんから恵まれ、黒枠の額縁に収めて書斎に置いていたが、ふっと気が変わって金色の装飾が施された豪華な額縁に替えた。すると、黒地に白い描線の絵は、周囲2センチの白いマットの中でじつに軽快な姿を見せるようになった。額縁を替えたら、絵の印象がこれほどまでに劇的に良くなるとは。細い黒縁のほうが絵の邪魔にならないだろうと考えていたが、それは間違っていた。金の装飾の額縁は、油彩画を良く見せるために使われる常套手段。小咄。ある展覧会での会話。
観客「立派ですね!」
画家「それほどでも」
観客「額縁が、です」
そんなことを思って地味な額縁にしたが、装飾した金縁の額、これは意外にも正解。門外漢にはわからないものだ。金縁だからこそ、黒地に白い描線の絵が引き立つ。やってみなければわからないものだ。額装を何年も待っている絵が何点かある。どれも版画だから油彩画と違って豪華な額装に凝ることはないが、「待たせたね」とそろそろ額装しないと。
猛暑日。午後2時35.1℃。夏には強いはずが・・・。