「質屋の女房」(閑人亭日録)

 『日本短篇文学全集 第41巻』筑摩書房 昭和43年1月12日第一刷発行を開き、安岡章太郎の短篇「質屋の女房」を半世紀ぶりかな、再読。記憶に鮮やかな結末にあらためて舌を巻く。奥野健男の解説の冒頭。

《 『質屋の女房』は、文学の玄人(くろうと)筋の批評家から、つとに名短篇として絶賛されている作品である。質屋通いの学生を通して、戦時下の市民の日常生活や風俗が内側から伝わってくる、そんなリアリティもあるが、なんと言ってもこの作品の眼目は、質屋の女房の不思議な魅力、暗い部屋の中で仄青(ほのあお)く光るようなエロティシズムにある。 》247頁

 だよなあ。若き日に読んで、こんな女に出会いたいと願った。そんな女は・・・いたなあ。と、過去形で語るしかない。それはさておき。夏バテ気味で何をする気力も湧かず、こまごまとした片付けごとをして、ふっとこの短篇を思いついた。本棚に並んだ48冊から探し出した。全48冊を新刊で購入したのは高校生の時。歳とってからも読めるように、と文庫本の活字よりも大きい「9ポ2段組」「小B6版・函入り・クロス装」「各巻272頁」「定価360円」。予感どおり、老年を迎えてゆっくり味わえるわ。午前二時過ぎ地震の揺れ(震源は神奈川県東部)、台風来襲間近の、蒸し暑い日にさっと読み終える好短篇はいいねえ。もっと読みたくなった。