『現代の美術 art now1先駆者たち』、高階秀爾「2 表現から抽象へ」。
《 現代芸術の大きな特質のひとつである国際化の現象は、20世紀になると同時に、まずヨーロッパ諸国のあいだで顕著に見られるようになった。いや実はそれは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパのみならず、アメリカから日本にまで影響を及ぼした世紀末芸術の時代からすでに明らかとなっていたことであった。 》34頁
《 フランスのフォーヴィスムとドイツの表現主義は、もちろんこのふたつの国の民族性の相異ということを含めて、多くの点で違いがあるが、しかし、従来の外界再現的な表現に対して、何よりも色彩をそれ自身のために用いたという点で、ともに現代絵画における色彩革命の出発点となったという共通点を持っている。 》34頁
《 つまり、真赤な部屋とか、真青な人間とか、真黄色の牛とかが描かれるということになる。(引用者・略)表現主義やフォーヴィスムの美学は、それ自身のなかにすでに抽象絵画への論理を持っていたのである。
もちろん、抽象絵画は、そこからだけ生まれてきたわけではない。色彩の解放と同じようなことが、形態についても必要であった。色彩が現実世界の再現とは別の独自の表現を持っていたように、形態も単に眼に見えるかたちを再生するだけのものではなくなった。形態におけるこの革命を推進したのは、キュビズムである。そしてそれも、色彩の場合と同じように、やはりその内部に、抽象絵画へ向かう論理を含んでいた。(引用者・略)このようにして、第一次大戦前のヨーロッパのいくつかの中心地で、抽象絵画への動きが次第に準備されるということになったのである。 》34頁
《 フォーヴィスムは、フォーヴ(野獣)という名前から、あらゆる秩序や枠組を無視した奔放激越な革命運動であったと一般に思われている。事実、少なくとも当時の人びとには、そのような印象を与えていた。 》38頁
《 フォーヴの画家たちの追求した秩序とは、それではいったいどのようなものだったのだろうか。マティスの場合は、ひと口に言って、それは、二次元の平面としての画面の持つ本質的な論理とい言ってよい。 》38-39頁
《 それらはいずれも三次元の室内の空間を表現したものでありながら、奥行きは否定されて、壁も床もテーブルの面も、すべて同一の平面に置かれている。(引用者・略)色彩も、そのまま壁紙の模様に明確な境界線もなしに続いてしまっている。色彩も、陰影や濃淡を拒否して、まるで切紙を思わせる明るい単純なものになっている。このことは19世紀的な美学から見れば、たしかに混乱とも思えよう。しかし、平面の論理から言えば、まことに統一のとれた明快なものである。 》39頁
《 20世紀の抽象絵画のもうひとつの重要な流れは、オランダの画家ピエト・モンドリアンによって推進されたネオ・プラスティズム(新造形主義)である。 》50頁
《 モンドリアンの美学の根本は、「純粋な色と線との純粋な関係によって純粋な美を
実現すること」にあった。 》50頁
《 絵画における抽象主義の登場は、同じ頃、彫刻の分野においても、類似の現象をもたらした。(引用者・略)このような彫刻の抽象化の過程で大きな役割を果たしたのは、ルーマニア生まれの天才ブランクーシであった。 》52頁