地動説(閑人亭日録)

 昨日の本を回想していて、地動説という言葉がふと浮かんだ。天動説から地動説への大転換。出版社の、半世紀ほど前の静かに漲る情熱が、装丁、造本からひしひしと伝わる本たち。その熱気は今もじつに熱い。と書くと、そんな時代もあったな、暑苦しいだけだろうと冷笑されるかもしれない。ホットを隠しクールに遊泳するのが今のカッコいい生き方・・・。それはそれでいい。地球の底のマグマは、分厚い地球の底はとんでもなく熱いぜ。いつ地底のマグマが噴出するか。それは誰にもわからない。火山の微動を観測するくらしか予測法はないだろう。ま、それは措いて。私は何を書こうとしていたのだろう。若い日の切迫した熱い情感が急に思い出されたから。強固な政治体制に抗おうと、一般学生の一人として学生運動反戦運動に参加した。鉄壁の壁も、塩を手で擦りつければ、いつか穴が開く、と信じていたわけでは勿論ないが、体制を変える手段は、そんな比喩でしか思いつかなかった。そして疲れ果て、旅に出た。一冊の本『塚本邦雄歌集』白玉書房をリュックサックに突っ込んで。岩手県の八幡平の山小屋で夏から晩秋まで、途中十和田湖の他の宿でアルバイトをして初雪の中、八幡平の山小屋へ戻った。山小屋で出会った同世代の人たち十人ほどは、先年我が家へ来訪。久闊を叙した。源兵衛川にとても喜んでいた。
 何を書こうとしていたのだろう。地動説だ。美術界(業界)はこれから天動説から地動説へと転換していくだろうと予感。この予感が実現してもしなくても、私はKAOSU(カオス)の五人=北一明、味戸ケイコ、奥野淑子(きよこ)、白砂勝敏、内野まゆみを推していく。現在の美術界(業界)にはまず無縁といえる人たち。けれども、市井の一美術愛好家は、非力を承知の上でさささやく。「だからこそ、おもしろいよ」。大々的に宣伝されて注目される美術家なんて興味ないわ。