読もうかな、と書斎の小卓の脚の間にずっとに立てかけたままになっていた『五木寛之エッセイ全集・第二巻─風に吹かれて』講談社 昭和五十四年十月十八日 第一刷発行を開いた。最初の一篇「赤線のニンフたち」を読み始めておっ、と注目。
《 そのころ私は、池袋の近くに住んでいた。立教大学の前を通りすぎて、もっと先だ。
十畳ほどの二階の部屋に、十人ほどのアルバイト学生が住み込んでいた。私もその一人だった。呆(あき)れるほど金のない連中ばかりで、何だかいつも腹をすかしていたように思う。 》10頁
おお、故つりたくにこさんと夫の高橋氏の住んでいた要町ではないか? それは措いて。結び。
《 失われたものは、二度と返ってこない。それが本当なのだ。 》15頁
うまい結びだ。第二篇「おでん屋とテレビ局」冒頭。
《 私が大学をやめたのは昭和三十一、二年のことだったと思う。 》16頁
結び。
《 やがて、遠くまで来た、という感慨が一瞬後によみがえって来た。 》21頁
第三篇「二十五メートルの砂漠」冒頭。
《 人生の楽しみにはいろんなものがある。 》22頁
結び。
《 遊べば遊ぶほど空しく、集まれば集まるほど孤独になるのが現代だ、という気がする。そんな時代に、孤独から抜け出る道は、こういった共同の行為にしかあるまい。ほかに何があるだろう。 》28頁
第四篇「歌はどこい行ったか?」冒頭。
《 私が早稲田にはいって、最初に覚えたのは、〈国際学連の歌〉というやつだった。》29頁
結び。
《 私の歌はどこへ行ったか? それを探すために、過去をふり返ってみるのも悪くはあるまい。 》34頁
ときおり古い、昭和の歌を聞き返したくなる。みなみらんぼう『途上にて』。
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