『人生処方詩集』(閑人亭日録)

 昨日の寺山修司詩集『わけもなくさみしかったら』の本家、エーリッヒ・ケストナー『人生処方詩集』ちくま文庫一九九二年六月二十日第三刷発行を開く。栞が挟まれている78頁を開く。それから長い詩、短い詩いろいろある中で、ぐっとくる短い詩を少し。

《  現代美術展覧会

  会場のぐるりに人が立っています
  諸君は珍しいことだと思いますか?
  これは全然見物人ではないのです
  これは画家自身なのです     》78頁

  苦笑するしかない。
 『わけもなくさみしかったら』を連想させる詩。

《  寂しさ

  ときにたまらなく寂しくなることがある!
  そんなとき襟をかき立て 店さきで
  あそこの帽子は悪くない、ただ少し小さいが……と
  ひとりごとなんか言ったって駄目         》136頁

《  天才

  未来にむかって飛躍する人間は
  たおれる
  そして飛躍が成功しようと 失敗しようと──
  飛躍する人間は
  ほろびる                 》216-217頁

 序文の次に用法。
 「芸術に理解がなさすぎたら」には「現代美術展覧会」「天才」。
 「孤独に耐えられなくなったら」には「寂しさ」。
 処方箋、効く、かな。