南伸坊『モンガイカンの美術館』朝日文庫1997年5月1日 第1刷発行で荒川修作とともに一際印象に残っている一編は「ビュッフェ氏は忙しかった」。冒頭。
《 私は急いでいたのである。 》293頁
《 会場につくと、私はひとわたり見て回ったのだが、異常に足早に見てしまったことに気がついた。こんな風に、競歩でもしてるみたいに急いで見たんでは、とてもヒョーロンなんてできるもんではあるまい。 》294頁
《 なんだって、こんなに早いとこ見ちゃったんだろ、と私は考えながら、カタログのページを操る手が、やはり忙しいのに気づいた。 》294頁
《 この絵なら、インタビューに答えながら、セッセと描けると私は思う。サイン色紙なんである。 》296頁
《 絵というのは、つまりサイン色紙のように必要な局面というものもある、ということだ。たとえば、喫茶店に入って、ソファーに座る。奥の壁にビュッフェの風景画がかかっている。
「あ、なるほど、ビュッフェね」
と、そのように了解するのが気持ちよいとする人もいるはずであるる。その人は、おそらく忙しい人である。 》296頁
私は急がない人。