何年か前、新装なった熱海市のMOA美術館へ行ったときのこと。何よりも驚いたのは、展示品を隔てるガラス板が、まるで無いように見えたこと。これが無反射ガラスか! ほんと驚いた。頭をぶつけないように、と注意書きの紙がいたるところい貼ってあった。手を伸ばせば触れると錯覚する。よって、美術品が生々しく迫ってくる。これには感心。これは低反射ガラスだったようだ。
所有する額のガラス(アクリル)板を無反射ガラスと交換したくなったが、当時、高かった。今ではずっと安価になった。気持ちが動く。手元には奥野淑子さんの小さな木口木版画。映り込みが目障り。ガラスのない状態で見ると、すっごく深い黒の味わいと白の生々しい生の息吹きが迫ってくる。題は『宙』。そうか、そんな題名だったか。ワカル。縦102ミリ、横43ミリの画面には、深遠な宇宙から来訪した、植物の形態をした生命体の趣がある。こんな小さな画面でそんな大げさなことを、と呆れられるだろうことは予想できる。が、羽毛のような、軽々と踊る!葉脈の精緻な彫り=表現を目の当たりにすると、絵画の魅力は画面の大きさではない、と実感する。また、ただの細密画とは全く違う次元の、表現の喜び~生の躍動に惹き込まれてゆく。ガラスの壁が無ければ・・・。が、私は粗忽者。作品に防護壁は常に必要。