『おたね』『秘密』

 一日雨。自宅でぶらぶら。何気なく本棚を眺めていて、あるはずなのに見つからなかった司馬遼太郎梟の城』、 福山知佐子『反絵、触れる、けだもののフラボン』がいとも簡単に目に留まる。そんなもんだなあ。

 芦辺拓パスティーシュ集は五冊出ているようだ。
  『名探偵博覧会1 真説ルパン対ホームズ』創元推理文庫 所持
  『名探偵博覧会2 明智小五郎金田一耕助創元推理文庫 所持
  『金田一耕助 VS 明智小五郎』角川文庫 所持
  『金田一耕助 VS 明智小五郎 ふたたび』角川文庫 未所持
  『金田一耕助、パノラマ島へ行く』角川文庫 未所持。
 『名探偵博覧会2 明智小五郎金田一耕助』には「少年は怪人を夢見る」があり、『少年は探偵を夢見る』東京創元社 がある。混乱しそう。で、いつ読むか。ワカラン。

 ネットに仁木悦子の短篇『おたね』1960年が採り上げられていたので、『夢魔の爪』角川文庫1978年初版で読んだ。 武蔵野次郎の解説から。

《 推理短編としての技巧〈つまり小説構成上の〉と、テーマとして描かれている物語内容とが、間然するところのない みごとな手法で描き出されている秀れた短編である。”人生”というものが本篇で浮彫りされていることが、何より 感銘深いのである。 》

《 三人の幼児をかかえ、無頼の夫に苦しめられながらも懸命に生きてゆかねばならぬおたねという女の姿に、 昔の日本の女性が置かれていた一般的な苦渋に満ちた人生を生ま生ましくふりかえらせるのである。 》

 二十世紀前半に一世を風靡した(猖獗を極めた?)自然主義小説の末裔のような印象。人生、なあ。

 『夢魔の爪』奥付に「 Printed in Korea 大韓教科書(株)印刷・製本」。角川文庫は1970年代、韓国で印刷と 聞いていたけど、やっと確認できた。

 『おたね』の前に読んだ谷崎潤一郎の短篇『秘密』1911年(明治44)には文句なく惹かれる。耽美の異世界に拐われる。

《 以来太平洋上の夢の中なる女とばかり思って居た其の人の姿を、こんな処で見ようとは全く意外である。あの時分やゝ 小太りに肥えて居た女は、神々しい迄に痩せて、すっきりとして、睫毛の長い潤味(うるみ)を持った圓い眼(まなこ)が、 拭うが如くに冴え返り、男を男とも思わぬような凛々しい権威さえ具えている。 》

 そして儚く崩れる夜の夢。いいねえ。『秘密』1911年(明治44)から永井荷風の訳詩集『珊瑚集』1913年(大正2)へ。 1909年(明治42)から1913年(大正2)にかけて発表された訳詞を収録。「珊瑚集附録」からボオドレエル。

《   嬉し悲しの色さへ見せぬ汝(なれ)が眼は、黄金(こがね)をまじえたる冷き寶石の如し。   》

 シャアル・ボオドレエル「暗黒」四連の後半二連。

《   されば夜ぞうれしき。空虚と暗黒と
    赤裸々求むる我なれば、星の光覚えある言葉となりて
    われに語らふ、其の光だになき夜ぞうれしき。

    暗黒の其の面(おもて)こそは絵絹なりけれ。
    亡びたるものども皆覚えある形して
    わが眼(まなこ)より数知れず躍(をど)り出(い)づれば。   》

 『秘密』と相通ずる気配。結局長い睫毛と瞳なんだなあ。睫毛といえばメーテル。あるいは尾沼しづえの短歌。

《   近江なる湖(うみ)のほとりの彼岸花額田王の睫毛がさやぐ   》

 受けて河野裕子(かわの・ゆうこ)の短歌。

《   たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏(くら)き器を近江と言へり   》

 毎月送ってくれるフリー・ペーパー『南大分マイタウン』連載のエッセイに「サギ用心 電話一本 サギのもと」。 全国で使えそう。

 ネットの拾いもの。

《 三本矢を射るのがアベノミクス
  当たるか外れるかは別
   打ちっぱなしとも言う  》

《 新国立競技場の聖火台は競技場の真ん中に護摩行をする護摩壇を設置してそこに灯火したら良いのではと 一部仏教界で話題になってます。 》

《 安倍晋三原発東京オリンピックの三つがなくなれば、日本はかなりいい国になるな。意外に低いハードル。 》