2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧
大学卒業後、一年限りという約束で父母の甘味処『銀月』の仕込みを手伝った。半年経った十月の朝、父が心筋梗塞で急逝。一年後に東京へ戻り、仲間たちの起こした会社に勤める予定を、仕方なく諦めた。仲間からは「この店はお前のする仕事ではない」と言われ…
二十歳早々、文筆家の三人の先達に出会った。俳句の加藤郁乎(いくや)、小説の中井英夫そしてドイツ文学者の種村季弘(すえひろ)の三人だ。三羽烏というか。その作品に注目した。縁があって親しくなった。《 四つで思い出したが、先日、静岡県三島市の一青年…
『日本美術全集 19 戦後~一九九五 拡張する戦後美術』小学館 二〇一五年八月三十日 初版第一刷発行、収録「150 雑誌『終末から』表紙絵』味戸ケイコ」解説・椹木野衣から。《 味戸(あじと)ケイコ(一九四三~)の名は知らなくても、一九七〇年代に思春期を過…
海外で再評価されても、日本ではすぐには話題にならない作家もいる。と昨日書いたが、例えばマンガ家の故つりたくにこさん。海外で発見され、イタリア、カナダ(英語版)、スイス(フランス語版)そしてブラジルから厚い作品集が出版され、今年はスペインか…
伊藤若冲は、明治の末期(二十世紀初頭)には美術界では正当に評価されていた。そのことは、審美書院『日本名畫百選』明治39(1906)年に収録されていることでもわかる。夏目漱石『草枕』明治39(1906)年には。《 横を向く。床にかかっている若冲の鶴の図が目に…
小原古邨は戦前は海外でよく売れた木版画家と業界では知られていたが、昭和二十(1945)年に亡くなり、戦後は忘れられたようだ。1997年だったか、三島の画廊主が仕入れてきた小原古邨の落款の多色摺り木版画を見て、「烏は嫌いだが、この木版画は好き」と、画…
踏み切る、踏み込む、踏み出す、踏み外す、踏み倒す、踏み抜く、踏み止(とど)まる・・・。ふむふむと辞書を眺めていた。踏に続くことばはまだまだある。これらのことばを美術の世界に持ち込むと、どうなるか。アヴァンギャルド=前衛と呼ばれる作品は、「…
以前にも何度か書いているが、一昨年の秋、山梨県立美術館で初めて接した縄文土器から受けた衝撃~感動が、今の充実感の引き金になっていると思う。写真や印刷でしか見たことのなかった縄文土器を間近に見て、一瞬で衝撃を受け、感動した。別にデカイわけで…
半世紀余り前、寺山修司作詞の『山羊にひかれて』を歌ったカルメン・マキで記憶に刻まれた歌詞♪しあわせ それとも ふしあわせ♪。 https://www.uta-net.com/song/38577/ 「幸せ」がときおり話題になる。幸せになりたいですか、幸せですか、と問い掛けられたら…
昨日取りあげた『木霊』からもう一篇。《 XXXI 岩井橋 川瀬巴水は、夕闇迫る古い木造の橋の上に、二人の農夫を描いた。 夕暮れの色を映す緩やかな川の流れと、その向かうに見える遠い山脈(やまなみ)と、これ から二人が帰っていくであらう小さな集落の高い杉…
松本勝貴氏から恵投された未刊歌集『花の影 風の韻』の感想とお礼を認めた手紙を郵送。氏から同時に恵投されたもうひとつの未刊歌物語集『木霊』を繙(ひもと)く。「あとがき」から。《 これまで五冊の歌集を編み、千首の歌を創った。ずいぶん前からそれらの…
松本勝貴氏から恵投された未刊歌集『花の影 風の韻』(ワープロ原稿)を読んだ。二百首どれも重厚にして密やかなかなしみ、細やかな情調がさりげなく詠われ、処女歌集から四十年ほどの歳月の経験の深さをふっと感じさせる。以下、私的好みの短歌のごく一部を…
東京新聞、きょうの文化欄のコラム『大波小波』は、留「追悼 篠山紀信」。その後半。《 写真の全能性と時代表象性を率直に信奉していた点で、彼は19世紀パリ最大の肖像写真家ナダールに似ている。だが少し見方を変えてみよう。新宿の真言宗円照寺の住職の息…
午後、近所のギャラリーVia701で開催されている白砂勝敏展へ友だちと行く。縦二メートル、横二十センチほどの七枚の細長い板に描かれた、太陽の燦然たる光のような作品が目を惹く。間隔は三十センチほどだが、もっと空いていてもよい。見る人に歓喜のような…
明日からの「白砂勝敏展」の展示作業をしているところへお邪魔する。入って左側の壁新作の『奏枝(kanae)』シリーズが十点近く並んでいる。漆黒に塗られた板に、乾燥させて表皮を一部剥いだ小枝が掛かっている作品に瞠目。これはいい!審美書院の本の蒐集を…
「凄い美術作品とは」という問いが、ふと布団の中でまったりしていて浮かんだ。布団にもぐって考えていても何も浮かばないので布団からであた。まあ、下手な考え、休むに似たり、というけど、起きているほうがまだましだろう。魂を震撼させる作品。心を慰撫…
編輯印刷兼發行者 相見繁一『 群芳清玩 第三』發行所 藝海社 大正二(1913)年三月十五日發行を開く。13日にリンクを貼った「【田島志一と審美書院】 山崎純夫」から。《 余昨秋故ありて審美書院を去り専ら工業方面に鞅掌しつつあり 本務の傍ら芸海社を起こ…
編輯兼發行者 田島志一 印刷兼發行所 審美書院『美術聚英 第十册』明治四十四(1911)年十月十二日發行を開く。判型は昨日の『真美大観』と同じ。やや堅い表紙。全十二頁と薄い。『緒形光琳筆四季花木圖屏風一隻』は右と左の白黒写真と左の左半分の着色印刷の…
昨日につづき、編輯兼發行者 田島志一 發行所日本佛教眞美協會『真美大観 第一册』明治三十二(1899)年五月十日發行を開く。「凡例」冒頭。《 一 本書は、各宗寺院の什寶に係る古今の繪畫、彫刻、建築物中に就き、其秀粹なるもの凡一千種を撰擇し之を撮影して…
編輯兼發行者 田島志一 發行所日本佛教眞美協會『真美大観 第一册』明治三十二(1899)年五月十日發行を開く。巻頭の多色摺り木版画による『五秘密畫像(絹本密彩) 筆者不詳』を鑑賞。じつに良い保存状態。解説後半。《 其筆意、設色の明潔にして、巧妙なるは、…
天気情報は”晴れ”なのに現状は曇天。ぱらぱらと小雨がありそうな重い雲。寒々とした陽気。外出する気にはなれんなあ。で、編輯兼發行者 田島志一 發行所日本佛教眞美協會『真美大観 第八册』明治三十五(1902)年十一月廿五日發行を開く。『普賢菩薩畫像(絹本…
マンガ家故つりたくにこさんの夫、高橋直行氏からうれしい手紙が届く。《 2024年は仏語版第2集にスペイン語版が出版されるはずです。 又、Pompidouで”アクロバット”の頭から5枚の原画が展示されます。 》 同封の高橋氏の原稿コピーから。《 パリのポン…
東京新聞、今朝の最終面、上半分の紙面は、内野まゆみさんの娘さんが先年、友だちと熱海で始めた『ひみつの本屋』の記事『「ひみつの本屋」 人気の鍵は 町探検』。冒頭ゴシック体の紹介文。《 鍵を借りて錠前を開けると、書棚ばならぶ無人の空間。本を選んで…
編輯兼發行者 田島志一 發行所日本佛教眞美協會『真美大観 第二册』明治三十二(1899)年十二月十五日發行の最初の図版『曇徴筆法隆寺金堂壁畫』は多色摺木版画。色がずいぶん剥落しているけれども、じつに高貴で美しい。絶妙な体躯の捻りが生動感を際立ててい…
明治後期の国華社と審美書院の本の多色摺り木版画が「木版画の極み」ならば、奥野淑子(きよこ)、久田誠道の木版画は「現代木版画の頂き」と言えよう。国華社と審美書院の、多色摺りによる古典作品複製木版画は、現代の原色カラー図版に較べて遥かに訴求力…
ふと浮かんだ「私はなぜ美術品を集める?」。味戸ケイコさんの1985年の初個展で原画二枚を初めて購入してから、原画の魅力にはまった。その時の一枚が『夢の入り口・1』1983年。 http://web.thn.jp/kbi/ajie2.htm 新聞広告で目にして焼きついた。魅力とは、…
二日に引用の「寫生にして寫生に非ず。自然を本とし、之を理想化して装飾に富ましめ、宛然一種の文様を成せり。」が、「写生」と「写実」を考えるとき、私に異なった響きを与える。 宛然(えんぜん)とは「そっくりそのままであるさま。よく似ているさま」と…
正倉院御物で宮内省御蔵版『東瀛珠光 三』審美書院 明治四十一年十一月三十日發行収録、『第百七十 緑地彩色繪箱及粉地花形方几 其一 側面 其二 箱蓋正面』、「其二 箱蓋正面」の彩色木版を鑑賞。いつ見ても素晴らしい色彩、デザインセンスだ。一千年あまり…
きょう三日は、人の出入りもなく、返信する年賀状もなく、骨休みの一日。こうして静かに過ごせることの幸運を実感。 午後、布団にもぐりながら思った。幸福感には満足感、達成感、充実感等が含まれる。今の自分は、美術に関してささやかな達成感と充実感を感…
元日とはえらく違う、雨降りしきる昏い正月二日。地震被災地を憂う。今は憂うしかない。それにしても、北陸といいパレスチナ、ウクライナといい・・・。 『日本名畫百選・下』審美書院 明治三十九(1906)年十月二十五日發行 編輯者東京美術學校 印刷兼發行者…