2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『北方の竪琴』三(閑人亭日録)

富士川英郎譯詩集『北方の竪琴』小沢書店1988年刊を読み進める。 ライナー・マリア・リルケ「ゆたかな林檎よ」第三連三行。 敢て語るがいい 君たちが林檎と名づけてゐるものを この甘さ はじめに濃くかたまつて それを味はふ口のなかでそつと起ち上り 角宮悦…

『北方の竪琴』二(閑人亭日録)

富士川英郎譯詩集『北方の竪琴』小沢書店1988年刊を読み進める。長歌に対する返歌のようなことを試して勝手に愉しむ。 ライナー・マリア・リルケ「豹」全編。 通りすぎる格子のために 疲れた豹の眼には もうなにも見えない 彼には無数の格子があるやうで そ…

『北方の竪琴』(閑人亭日録)

富士川英郎譯詩集『北方の竪琴』小沢書店1988年刊を少し読んだ。《 原詩人はすべてで三十一人、みなドイツの詩人であるが、その詩百四十餘篇が本書に収められてゐる。 》 「あとがき」 394頁 譯詩はすべて旧漢字旧仮名遣い。引用では旧漢字を常用漢字に改め…

原色印刷画と多色摺木版画(閑人亭日録)

昨日引用した椹木野衣『感性は感動しない』、どの引用も深く頷くことばかり。だから引用。そして以下の引用に思ったこと。《 結局、モニターで見ている透過光の原稿と、紙に出力されて反射光で読む文字とでは、目を通して頭に入ってくる感覚がまったく違うの…

『感性は感動しない』再読・つづき(閑人亭日録)

椹木野衣『感性は感動しない 美術の見方、批評の方法』世界思想社2018年初版を再読終了。《 結局、モニターで見ている透過光の原稿と、紙に出力されて反射光で読む文字とでは、目を通して頭に入ってくる感覚がまったく違うのです。 》 「本の読み方、批評の…

『感性は感動しない』再読(閑人亭日録)

椹木野衣『感性は感動しない 美術の見方、批評の方法』世界思想社2018年初版を少し再読。《 はっきり言うが、芸術に技は必ずしも必要ではない。芸術に必要なのは、圧倒的に感性である。 》 「感性は感動しない」 3頁《 そもそもよい絵とはなんであろうか。す…

もうサヨナラ、なの(閑人亭日録)

歌人佐藤よしみさんから届いた個人誌『帆・HAN27号』を読む。述志、心情の直截吐露の歌のなかで、この一首が気になった。 サヨナラと手を振ったからとびきりの笑顔を返すもうサヨナラ、なの 朝、源兵衛川中流、三石神社脇の茶碗のカケラ、ガラス片を拾う…

田島志一の審美書院最後の刊本(閑人亭日録)

ポルトガルの漢字は葡萄牙だとは知らなかった。国語でも知らないことが溢れている。 朝、源兵衛川中流、三石神社脇の茶碗のカケラ、ガラス片を拾う。ぐっと重くなり三十分ほどで終了。川から上がると、境内の銀杏の落葉を掃いていたいたオバサンが 「何を拾…

『ぽるとがるぶみ』つづき(閑人亭日録)

マリアンナ・アルコフォラード・文/佐藤春夫譯『ぽるとがるぶみ』後半、第三、第四、第五(最後)の手紙文を読んだ。《 さようなら、あなたさまにお目にかヽらねばよかつたものをと、わたくしはどんなにか後悔しますことか。ああ、こんな一句が、どれほど嘘…

『ぽるとがるぶみ』(閑人亭日録)

北村薫『遠い唇』角川文庫2019年初版、天野慶の解説に堀口大學訳のマリー・ローランサンの詩『鎮静剤』が取り上げられていた(208頁)。好きな詩なので堀口大學訳詩集 『月下の一群』講談社文芸文庫1996年初版を開き、「鎮静剤 画家 マリイ・ロオランサン」…

『スクリーンの悪女』(閑人亭日録)

昨日の北村薫『遠い唇』もそうだが、私の読んだ範囲で彼の本には普通の一般女性が登場するが、悪女、妖婦と形容したくなる女性は登場しない。そこが物足りないとも 言える。そこまで要求することはないとも言えるが。そんな気分で手にしたのがムック別冊太陽…

『遠い唇』(閑人亭日録)

昨日の日録の『窓を打つ蝶』の表題の短歌”亡夫(つま)病める夏の日買ひし口紅をくちびるにさせば 窓を打つ蝶”。蝶が窓を打つ、なんてことはあり得ないことを うかつにも見落としていた。ああ、粗忽者。この一首は『夏暦』51号2020年1月に掲載。気づかなかっ…

『窓を打つ蝶』つづき(閑人亭日録)

王紅花さんの個人誌『夏暦』で読んでいた短歌が一冊の歌集にまとめられると、印象がぐっと深まるのを実感。なんだろう。さざ波と怒濤の違いかな。悲嘆、哀傷、絶唱 という言葉が浮かぶ。夫松平修文氏との生活がいかに充実していたか。半身をもぎ取られたよう…

『窓を打つ蝶』(閑人亭日録)

王紅花さんから新歌集『窓を打つ蝶』ながらみ書房2020年11月23日発行をご恵投いただく。帯から。《 この一巻を/亡夫松平修文に/捧ぐ 》 既読の個人誌『夏暦』以外の短歌をまず読んでみる。 夢のなかに君と会へども夢の人に「心」あらざることをかなしむ き…

『ことばの政治学』補足(閑人亭日録)

永川玲二『ことばの政治学』筑摩書房1979年初版、昨日触れた最後のエッセイ「〈ほんやく文化〉の悲惨と栄光」の補足というか、ぐっと来た箇所。このエッセイの 副題は「──グロータス神父への公開状──」。《 私は「誤訳」を買ってきて一気に通読しました。そ…

『ことばの政治学』五(閑人亭日録)

永川玲二『ことばの政治学』筑摩書房1979年初版を読了。《 子供のころからアルファベットだけを読んだり書いたりしながら暮らしてきたひとびとにとって、漢字は興味津々たるおもちゃであるらしい。詩人エズラ・パウンドは 自分の代表作のなかに、わざわざ墨…

『ことばの政治学』四(閑人亭日録)

永川玲二『ことばの政治学』筑摩書房1979年初版を少し読んだ。《 たしかにむずかしいところもある。鉛筆を三本までまぞえるにも、イッポン、ニホン、サンボンと毎回発音が変化するし、人間のひとり、ふたりはやまとことば、 三人以上は原則として漢数字。た…

『ことばの政治学』三(閑人亭日録)

永川玲二『ことばの政治学』筑摩書房1979年初版を少し読んだ。《 ブルターニュ自治には賛成だよ。ブルターニュやオウレバスク(フランス領バスク地方)というのはね、いませこそフランス国内にあるけど、文化的、経済的な立場から 見ると一種の第三世界でね…

『ことばの政治学』二(閑人亭日録)

永川玲二『ことばの政治学』筑摩書房1979年初版を少し読んだ。スタンダールのフラングレ(フランス語と英語の入り交じった中間言語を表すスラング)の話。 英語の FOR YOU が話題に。《 スタンダールが生きていたころパリのサロンのフランス語は全ヨーロッパ…

『ことばの政治学』(閑人亭日録)

永川玲二『ことばの政治学』筑摩書房1979年初版を少し読んだ。表題作の内外の政治情勢の複雑怪奇な歴史の見取り図を、実体験を交えて軽快、簡明に描き出す手腕に脱帽。 半世紀近く前の発表だけれど、全く古くない。《 党の会議や政治集会での発言はすべてロ…

視界・他界(閑人亭日録)

昨日の幻視者から発想したこと。此岸・彼岸がある。ならば他界があるなら此界もあるだろうと調べたが、手元の辞書には無かった。視界をそれに充ててもいいかな、と 勝手に思う。視界、それは見える世界。机上の辞書広辞苑には”見わたせる範囲。固定した眼ま…

『彼方より』『彼方へ』(閑人亭日録)

昨日の坂部隆芳氏の、不動明王(?)の阿吽の「阿」を斬新に描いた絵画(130cm×130cm)には『末法』という題がつけられていた。副題から彼方という言葉が浮かんだ。 坂部さんに入れ込んでいる、牛山さんの奥さんと話をしていてふと「常世」という言葉が浮か…

坂部隆芳『13世紀のピエタ像』(閑人亭日録)

前世紀末、坂部隆芳『13世紀のピエタ像』テンペラ画50×50cm1989年を地元の画廊で見て、これは買わねば、と即購入。K美術館の常設展示は味戸ケイコさんと北一明。 洋画、日本画は所蔵していなかった。良い油彩画を探していて、未知の画家のこの絵に出合った…

『三つの言葉』(閑人亭日録)

一日朝、町内の防災訓練で一緒になった向かいの鰻屋桜家の若い店員と四方山話をしていて、先代のことを今の主人が気にしていることを知った。で、翌々日宇佐美英治 『三つの言葉』みすず書房1983年初版を店の人に主に贈るようにと渡した。一昨日、主は喜んで…

『吉田一穂大系』(閑人亭日録)

昨晩吉田一穂をネット検索したら「松岡正剛の千夜千冊 1053夜『吉田一穂大系』」に出合った。 https://1000ya.isis.ne.jp/1053.html《 こんな詩人はもういない。加藤郁乎は「北原白秋ですね、次が西脇順三郎で、そして吉田一穂ですよ。日本の詩人はこの…

末期の眼 半眼微笑(閑人亭日録)

二十代のはじめから川端康成のいう「末期の眼」と詩人吉田一穂(いっすい)のいう「半眼微笑」が心のどこかにひっかっていた。今朝起きぬけに二つの言葉が同時に 浮かんだ。初めてのこと。そして昨日ふれた尾形光琳『躑躅(つつじ)花圖』が浮かんだ。 https…

『千山万水図』『躑躅花圖』(閑人亭日録)

『芸術新潮』2018年5月号特集「最強の日本絵画100」で、狩野博幸が「偏愛ベスト3+α」で挙げていた渡邊崋山『千山万水図』1841年は、『文人畫三大家集』 『南畫十大家集』には未収録。村山旬吾・編『本朝三十家名畫集』國華社明治三十九(1906)年には収録…

文人畫、南畫(閑人亭日録)

田島志一・編『文人畫三大家集』審美書院明治42年五月五日発行、田島志一「緒言」結び。《 本書は三大家の代表作を網羅して略々遺憾なきを得たるを信ず、然れども本書掲載以外若干の傑作なきにあらず、此等は悉く東洋美術大觀に収載し、両々三名家の面目を …

渡辺崋山(閑人亭日録)

田島志一・編『南畫十大家集』上巻審美書院の彩色木版画、渡辺崋山『富嶽圖』を鑑賞。《 富嶽圖 紙本着色 縦一尺八寸六分五厘、横二尺二寸九分 傳へいふ崋山一日洋畫の法に倣ふて富嶽を寫さんと欲し、繪具の調合、雲烟の塗抹、幾多の苦心を重ねて成りたるも…

七十歳のボク→ボケ(閑人亭日録)

昨日届いた田島志一・編『南畫十大家集』(上・下)審美書院明治42,43(1909,1910)年刊をざっくり鑑賞。上巻最後の渡辺崋山に瞠目。与謝野蕪村もいいが、 渡辺崋山の時代に抜きん出た構想力が、胸郭にどかんと響く。時代を超えて心を揺さぶる絵の力だ。実物…