わがからんどりえ

 小中英之『わがからんどりえ』、気になってはいてもなぜ今まで読まなかったか、気がついた。題名のせいだ。「わが」なんて仰々しい言葉が無意識に敬遠させた。「からんどりえ」とはフランス語でカレンダー=暦のこと。福島泰樹は当時の書評紙に書いている。

《 その微妙な気息が文体のあらたな魅力となっている。しかし読み手の気分がのらないと読みすごしてしまうものがずいぶんとある。私なども、からんどりえの気息にはいってゆくまで、かなりの時間を要した。》

 昨日は巻末の安藤次男「小中英之の歌」を読み、自らの読みの不確かさに震撼し、福島泰樹の文に胸をなで下ろした。彼らが取り上げなかった短歌を。

  月射せばすすきみみづく薄光りほほゑみのみとなりゆく世界

  冬の日のあけがたひとり沈黙のはてに胡桃を割りつつ遊ぶ

  花びらはくれなゐうすく咲き満ちてこずゑの重さはかりがたしも

  黄昏にふるへ浮かびて遠街のいづこも人のけはいを灯す

  薄明の高きに百合の蘂ふるへ愛なき世界ささふるごとし

  詩歌とほくひとの形見のごとく昏れまづ月光のしたたりを浴ぶ

 『安藤信哉画集』が届く。

9月 5日(月) 休館日

 去り行く台風のうっとうしい雨に気力が失せ、一日のんびり過ごす。昨日の毎日新聞コラムに『小中英之全歌集』砂子屋書房が紹介されていた。

《 生前、歌集は2冊しかない。「第一歌集にして精華集という奇跡」(藤原龍一郎氏・解題)の名作『わがからんどりえ』。韻律の力と独自の文体を確立した『翼鏡』。》

 二冊ともあるけど、第一歌集『わがからんどりえ』角川書店1979年初版を読んでみた。感想は明日。

 とあるブログを読んで、そういえば司馬遼太郎藤沢周平山本周五郎歴史小説は一冊も、というより小説は全く読んでいなかったことに気づく。司馬遼太郎のエッセイは少し読んだが。偏愛すさまじい読書だ。