草間彌生「マンハッタン自殺未遂常習犯」角川文庫1984年を散読。紹介文から。
「本書は、彼女の活力あふれる芸術活動の舞台背景となったマンハッタンでのさまざまな体験を綴った奇妙な魅力に満ちた小説である。」
草間彌生その人の作品には惹かれないが、この小説はそれなりに面白かった。
「エノグのパレットからカ−マインのヌレヌレを平筆にべたりつける。白い大キャンバスに熊手のように体 這う網の血を力一杯。一面にベッタリぬる。」第三章「淋病星雲精液拒否宣言」116頁
「わたしが33フィートのカンバスに 朝晩、画面の端から 端まで、ネットを描きつづけて構図を忘れ、、中心を忘れ、ディメンションを忘れて、アーチストになることを忘れ、自我を忘れてしまった。」第三章「淋病星雲精液拒否宣言」117頁
彼女の自作解説だ。
「画商多くして汚染巷右往左往し、あまつさえ、画才発掘することあたわず、真実、寥々として渇泉の如し。マネーのみに惑溺して、道標の過失はマーケットに満つ。美術の推進者 頭脳悪きこと此の上なし。アーチストもおろかにして、社会 人類にうとく、夢幻無想にうろたえる烏合の衆、フーリッシュかクレージーか。画壇腐敗して、ジャスト、権威虚妄、政治悪業残るだけ。光芒のタレント、星のスピリットは、巷になやみ、歴史、評家はこれを発掘せず、どころか、誤解と困難の渦に大衆をまきこむだけ。画道は、地に落ちて、魂はただシルエットのみ。」第七章「病気は淫乱な太陽よりも強し」261頁
後半にいくにつれ、ゲイ、ホモセクシャルから糞が頻出する糞まみれの第八章「聖なる糞の大叛撃」へ。
屁蹴る。小便は飢える。女陰。陰毛留守。
蹴る毛凍る。冷陰員。丸苦巣。慰撫栓。
といった当て字がずらっと並ぶ。大したものだ。後につづくはデカルト、プラトン、ジイド、エマーソン、ヘルマンヘッセ、ベートーベン、クレーグクール、マラルメ、ヘミングウェイ、ブラウニング、アービング、ゴーガン、トーマスマン、ピタゴラス、スターリン、バイロン、フロイドら名士の当て字。はあ。巻末は「草間彌生現代訳 男色百人一首」。
岡本太郎、横尾忠則並みの文筆家だ。彼ら同様、アート作品よりも文章のほうが遙かに面白い。糞まみれの文章に、ビートたけしにならって「愛でもくらえ」と返したくなる。