玄関前の駐車場で赤とんぼが静止浮遊している。秋近し。開館時間前から来館者。賑やか。盛況裡に無事終了。ほっ。
加納朋子『スペース』東京創元社2004年2刷を読んだ。『ななつのこ』『魔法飛行』に続く駒子シリーズ第三作。「スペース」「バック・スペース」の中篇二作を収録。二作は同じ出来事を表と裏、から描いたもの。女子短大生駒子たちが演じる二作それぞれが、ポジからネガへ一変する構成になっている。つまり、二重に反転する構造。そんなどんでん返しに翻弄された。降参。
「バック・スペース」では男の私にはわからない女の子同士の複雑な交際模様が描かれている。そこで語られる吐息のような言葉が興味を惹く。
《 ひょっとしたら人間にとって一番の悲劇は、当人にとっての悲劇が、客観的には喜劇以外の何物でもない状況なのではあるまいか、と思う。 》137頁
《 なるほど、人間の居場所なんていとも簡単に消滅してしまうものだ。 》169頁
《 同じとき、同じ場所にいて、同じ空気を吸っていても、やはりそれぞれの世界はまったく違うのだと、何だか不思議な気持ちになる。 》186−187頁
《 人と人がいれば、必ずそこには当事者同士しか知らない会話があり、事実があり、感情がある。そうして、ささやかな歴史は積み上げられていく。 》212頁
《 本当に大切なものは、視覚や聴覚だけじゃなくて、五感のすべてをフルに用いて伝わってくるのだと思います。 》221頁
《 「もう夏なんですねえ」
とつぶやいたら、相手はのんびりした口調で「そうだねえ」と答えた。それだけのやり取りが、ぞわぞわするほど嬉しいのだから不思議だ。 》226−227頁
《 生きていればきっと、逃げ出すよりほかに道がないときだってある。遮二無二突進していって、その結果無惨に激突するよりは,回れ右して逃げ出す方がずっといい。 》230頁
ネットの見聞。
《 子供が純真であるというのは大人のロマンで、子供はけっこう腹黒い。ただ、知識や経験が決定的に欠如しているので、腹黒くても大人から見ると間が抜けていて可愛く見える。大人は子供が本音丸出しであるとき純真だといい、大人がそうだとうす汚いという。 》 阿川大樹
《 紙の本で上下巻だったものは、電子書籍でも上下巻に分かれるのはなぜだろう……。まとめても重くないし嵩張らないし背表紙も割れないのに。 》