「半島。反転としての 」

 昨夜風呂に沈んでいてはっと閃いた。昨日の松浦寿輝『半島』は、川端康成『雪国』の 反転ではないか、と。『片腕』までは思い浮かべながら『雪国』には思い至らなかった。 国境の長いトンネルを抜けると雪国。瀬戸内海に突き出た半島の先五十メートルほどの 橋を渡ると島がある。長いトンネル、すぐ渡れてしまう橋。『雪国』の島村、『半島』 の迫村(さこむら)。『雪国』の駒子と葉子、『半島』の樹芬(シューフン)と佳代。 何よりも『雪国』の冬、『半島』の夏。東京から逃れてきた島村、迫村。どちらも 途中から始まり、途中でぷつっと途切れるように終わる。二十一世紀の『雪国』を 書こうとしたのか。昨日引用の「あとがき」を再掲。

《 立ち竦むところで、いきなり中絶するように終る。》

《 背後でまたごうと風が立ち、灰がひとひら飛んできてくるりと翻り迫村の顎に 張りついた。 》 『半島』の結び

《 踏みこたへて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ 落ちるやふであつた。 》 『雪国』の結び

 他にも対照的な事項はいくつもある。こういう勝手な牽強付会は好き。

 昨日昼、長崎市で個展をしている装丁家の戸田ヒロコ女史から電話。彼女の元夫、 西岡武良氏が亡くなった、葬儀は近親者で済ませた、と。思い出話にしばらく耳を 傾けた。西岡武良は冥草舎という出版社社主。一人出版社だ。加藤郁乎句集『球体感覚』 冥草舎1971年の出版記念会に加藤郁乎(いくや)氏から誘われ神楽坂の日本出版クラブ だったかへ行った。この本は高価で学生の身には手が出なかった。後日購入。二次会で 矢来町の西岡氏のアパートへ。書棚に水木しげるの貸本漫画を見つけ、盛り上がった。 後日お礼に氏の所持していない水木しげる『地獄』を贈呈。それからヒマにあかせて 小川国夫『リラの頃カサブランカへ』の限定本の制作のお手伝いをして、神田神保町の 古本屋の若主人から寿司をご馳走になったり。いろいろあった1970年代。本棚から 西岡武良『愛書異聞』沖積舎1981年初版(装丁・戸田ヒロコ)を取り出す。見返し (遊び紙)には墨筆鮮やかに、《 夢のなかでみた 美しい本との出逢い 》

《 いい本は、どの時代にもひたすら出会いをまって、ひっそりと静かに息づいている。  》 「あとがき」

 西岡氏からの最後の便りは俳諧誌『水分』第一号眞鍋呉夫発行1989年に付されたもの。

《 過日、作家・真鍋呉夫さんの依頼があって、連句俳諧誌「水(みくまり)分」を 制作いたしました。久かたぶりの仕事ですが、愉(たの)しく出来ました。 》

 障子紙の張替えを依頼。障子の前に積んである段ボール箱を移動。一汗かく。へえ〜、 こんな本を詰めてあったんだ、と感心。一時マイブームだった宇野亜喜良の表紙絵の 文庫本が詰まっている。集めたものだ。都筑道夫の文庫本を詰めた箱がまだ奥にあるとは。 都筑道夫コレクション《本格推理篇》『七十五羽の烏』光文社文庫2003年初版があった。 一昨日あげた下記はこの本のこと。

《 絶対持ってるはずの本がどこを捜しても出てこない絶望感。 》

 この515頁に山藤章二のイラスト「三島でみた大正期の女郎屋……」。「三島・清住町  村岡荘」「元・郭の大店  現・アパート」。

 勢いで台所の換気扇カバーを取替え。そうか、大掃除の季節か。

 不足を予想して買ってあった無塩バターがとうとう一箱に。ブックオフ長泉店近くの スーパーに二箱分450グラムの無塩バターがあった。やれやれ。その前に長泉店で文庫本を 四冊。草野心平宮沢賢治覚書』講談社文芸文庫1996年6刷、中島京子『女中譚』朝日文庫 2013年初版、半藤一利『日本のいちばん長い日 決定版』文春文庫2008年7刷、四方田犬彦 『先生と私』新潮文庫2010年初版、計432円。

 ネットの拾いもの。

《 あべのままで?!  》