「 白き日旅立てば不死 」

 荒巻義雄『白き日旅立てば不死』ファラオ企画1992年初版を読んだ。元本は1972年に出たが、 1980年に出た決定稿となる角川文庫を底本にしている。1976年に出たハヤカワSF文庫はあるが、 これはハードカバーの単行本の大きめの字体で読んで正解。素晴らしく面白い。帯文から。

《 ヨーロッパへ向かった白樹は、やがて意識と無意識との境界をさまよい歩き、ついに 〈異界〉の存在を容認する。荒巻文学の原点となった傑作幻想小説! 》

 熱にうなされたような濃密な描写に、熱病に感染したかのように惹き込まれる。

《 だが、白樹は、さらに、それ以上のことを考えてしまったのだ。一見、安定そのものにみえる 社会の根柢にあるものが、本当はきわめて不確かであるということ、またそこに生きている人間 そのものだって不確実な存在にすぎないということまでも、彼は一気に確信しまったのだ。 多分、彼の狂気の徴候がすでに芽ぶきはじめていたにちがいない。 》 35-36頁

《 奇蹟を経験したものは変わるという。そのありえないもののために、”世界”という現実的で 堅牢な構成物のどこかにひびが入るからだ。”世界”の完璧性はそのとき崩壊しはじめる。 理性は様々な手段でその不完性を納得させようと働きかけるが、ついに果たしえない。”世界”の 瑕は理性にうちかって広がりはじめる。そして”世界”そのものが消滅する。 》 128頁

《 だが、祈るとはいったい何であろう。その行為の意味を彼は知らない。ただ、心が過去へむかって 開かれた。そこより、過去が流れこんでくるのであった。それは過去の記憶ではない。過去そのもので あって、彼の現在と一致しているものであったのだ。 》 168頁

《 彼女の黒い影だけが、截断された型紙のように、壁に残っていた。 》 173頁

《 白樹が、のめり入るように聖堂の内部に足を踏み入れると、そこは全き溶暗がたちこめており、 というよりは次元の割れ目より現われたかのような世界で、彼は何者かの力によって強くひきつけられる ように、われを失ってそのさらに奥へ引き寄せられていた。 》 228頁

《 その壁面のすべては、虚偽と真実の二種の扉で占められていた。 》 235頁

《 白い光景……。《おれはそれを観たのだ。白い道……》錯乱。記憶喪失。精神病院。 》 264頁

《 白樹の体験した異様な世界は、こうした無意識と意識との境界の国だったのであろうか。 現実的なものが存在の原型よりくずれ、無意識の世界に融けだしていく。変貌し異形のものとなるのだ。 その薄暮あるいは夕暮の世界を、白樹は幻視したのだろうか。 》 285頁

 悪文すれすれの文章、異様な熱気。まず連想したのが毛色は違うが、古川日出男『アビシニアン』 『アラビアの夜の種族』。読後思い浮かべたのが小栗虫太郎黒死館殺人事件』。幻視、幻聴、幻覚、 幻想。現楽幻奏曲。これはハマル。

 朝、三島市大場(だいば)の放置竹林の伐採作業中の現場で小田原市からの視察を受け、 事務局長が説明と質疑応答。その後源兵衛川を案内。昼帰宅。

 午後ブックオフ長泉店へ自転車で行く。井上ひさし『不忠臣蔵集英社1985年初版、福島泰樹『弔い』 ちくま新書1997年初版、計二割引172円。二割引なので購入。

 ネットの見聞。

 昨日の伐採作業の静岡新聞の記事。
 http://www.gwmishima.jp/modules/xelfinder/index.php/view/678/150125%E9%9D%99%E5%B2%A1%E6%96%B0%E8%81%9E(%E6%9D%BE%E6%AF%9B%E5%B7%9D%E5%8F%B3%E5%B2%B8%E7%AB%B9%E4%BC%90%E6%8E%A1%E5%AE%8C%E4%BA%86).pdf

《 周囲から無能だ優柔不断だと思われている指導者ほど危険である。世間を見返すために無理を するからである。日本に原爆を投下したトルーマンがそうであり湾岸戦争を始めたブッシュパパが そうであり、安倍晋三首相もこの系列に連なる人物である。 》 土佐の酔鯨 

《 元ナチス高官曰く「国民は戦争を望まない。しかし決めるのは指導者で、国民を引きずり込むのは 実に簡単だ。外国に攻撃されつつあると言えばよい。それでも戦争に反対する者を、愛国心がないと 批判すればいい」 》 watanabe