ブランド好き

 ときどき源兵衛川をブランド化するのが目的と話しているけど、源兵衛川は環境省選定「平成の名水百選」に選出され、初期の目的は達成された。これからどうやって維持しさらに豊かな生態系をどうやって実現していくか、という課題が待ち構えている。そんなことを考えているこの頃、斎藤美奈子「文学的商品学」文春文庫でブランドについての言及に出合った。

「ブランド品とはブランドストーリーやエピソード、すなわち『伝説』や『物語』を最大の商品価値にしている商品でもあります。」86頁
「ブランド品を買う人は、『物語』に高いお金を払っているともいえるのではないでしょうか。」86頁

 この指摘、美術品特に近代・現代絵画にも通用する。例えば先だってのNHK教育テレビ「新日曜美術館」で特集された洋画家、高島野十郎。この生前は殆ど無名の画家の生涯を辿ることで、彼の絵の価値をぐーんと上げたことは一部で知られている。既に彼のウリの一本の蝋燭の絵の贋作がネットオークションで落札されたとか。彼の蝋燭の絵は、久世光彦「怖い絵」文春文庫の表紙で見られる。私には彼の絵は、名作というほどのものか?という疑念がある。実物に接していないので断言はできないが、蝋燭の光の表現なら、ジュルジュ・ド・ラ・トゥールの絵のほうが桁違いに凄い。ラ・トゥールには高島野十郎ほどの「物語」はない。「伝説」はあっても。外国人は知らないが、日本人は美術品本体の価値よりも「物語」や「エピソード」を重視する傾向がある。展覧会では経歴や肩書を、作品よりも先に読む人が多い。日本人のブランド好きはこういうところにも表れている。

 ブックオフ長泉店で三冊。日影丈吉「ミステリー食事学」教養文庫1981年初版、シャーリイ・ジャクスン「ずっとお城で暮らしてる」創元推理文庫2007年初版、ロナルド・A・ノックス「陸橋殺人事件」創元推理文庫1982年初版、計315円。