水の迷宮の夢

 気になる105円本は買っておけ、でいつだっか買っておいたヨシフ・ブロツキーヴェネツィア・水の迷宮の夢」集英社1996年5刷を、ヴェネツィアつながりで読んだ。おお、レニエに言及している。

「ある友達が、フランスの作家アンリ・ド・レニエの中編小説を三冊、貸してくれたことがあった。」
「そしてその中の一冊、勝手に『田園娯楽小説』と呼ぶことにするが、その小説の舞台が、他でもない冬のヴェネツィアだったのだ。その小説の雰囲気は、黄昏の光と危険な薫りに満ちていて、その舞台は鏡、鏡でまことにややこしい。そして主な事件は、もう誰も住まなくなって久しい館(パラッツオ)の中の、鏡の向う側で続けさまに起こる。」

「僕らは肘かけ椅子に沈みこんで、ドイツの新米の観光部隊や、新時代の長老のように、いたるところでカメラのファインダーをのぞいている日本人について悪口を言い合ったりする。」

 昨日の毎日新聞朝刊に「35歳以下を顕彰 絹谷幸二賞創設」の記事。画家絹谷幸二が賞金を出す。選考対象は「具象的傾向の絵画」。安井賞を踏襲している。選考委員は多摩美術大教授本江邦夫、国立国際美術館主任研究員中井康之、画家福田美蘭の三人。来年二月下旬発表。

本江邦夫
「具象の本道とは何か。私たちに教えてくれるような、新しい表現を期待しています。」
中井康之
「われわれはその『絵画』と共に生きた、と言い切ることができる奇跡と立ち会えることこそを、喫緊の要事としたいのです。」
福田美蘭
「『身体性をいかに的確に用いるか』が、絵画の当面の課題となります。この問題にどこまで自覚的になっているかを見極めようと思います。」