闇の中のオレンジ

 梅雨の中休みだろうか、青空が広がる。よって暑い。
 天沢退二郎「闇の中のオレンジ」筑摩書房1976年を読んだ。これは短編集だけれど、すごいわ。奇妙な味の小説といえばいいいのかな? と読んだ直後は思ったけれど、幻想小説ではなく源想小説と標記したくなる。子どもの日常が一齣ずれただけで、まったく違った別世界へ一気に変貌する。穏やかな日常なんてじつは無いのだ。子どもの日常は原初の怖れに満ちている。「光車よ、まわれ!」の延長上にこの短編集はある。それは「光車よ、まわれ!」で主役を演じた龍子が「海辺で会った少女」に出てくることでもうかがえる。また、無慈悲に人が死んでしまうのも同じ。「《グーン》の黒い釜」から。

「のきさきに釘で打ちつけた物干し竿をのせる台から、赤ぐろい大きなものがぶらさがってかすかにゆれている。五郎のお母さんだ。くびくくったんだ。!」

 小学生が主役というだけで、これは大人の読む小説だ。先取りして書けば、次作「オレンジ党と黒い釜」巻末の「闇の中のオレンジ」の広告文にあるように、これは「日常生活とすぐ隣合わせにある妖怪変異の世界にいきなり誘い込む12篇の短篇集。」だ。そして「「オレンジ党と黒い釜」へ物語はつながってゆくようだ。次の読書は「オレンジ党と黒い釜」に決まり。

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店へ寄る。文庫半額セール、105円本が52円。芦辺拓・編「本格推理マガジン 絢爛たる殺人」光文社文庫2000年初版、斎藤純「ル・ジタン」双葉文庫1997年初版、ディケンズ「大いなる遺産(上・下)」新潮文庫1999年70 刷、61刷、計208円。52円だから買ったものばかり。