光車よ、まわれ!

 天沢退二郎「光車よ、まわれ!」ちくま文庫を一気読み。最初の一頁から物語に引き込まれた。そして息もつかせぬ展開に最後までぐいぐい引っ張られた。ダーク・ファンタジーの部類かもしれないが、これは子どもの頃の苦い感覚をまざまざと甦らせた稀有な怪奇物語だ。解説で三木卓は書いている。

「『光車よ、まわれ!』は、悪意ある外力によってたえず攻撃をうけているこどもたちのものがたりであるが、それはいつも突発的な凶暴をともなった外力であり、いささかも油断するわけにはいかないのだ。」

 この物語については、さまざまな視点からの論評が出てくる気がする。弱っぴいな一郎を助けて奮闘する龍子。そしてルミ。凛とした女の子がじつに魅力的なのは日本アニメの特徴らしいけど、この1973年発表の物語も見事に当てはまる。なによりも特徴的なのは、片親が当たり前で、無慈悲に人が死んでしまい、そんなことに感傷もしていないことだ。跳梁跋扈する悪意ある黒い雨=水。このじゃかすか雨が降る時にうってつけの物語だ。ブログ「内田樹の研究室」の「おじさんの胸にキュンと来る」で言及している「どろどろして不健康で暗いもの」こそ、この「悪意ある水」かも知れない。