きょうも静かな雨。飽きる。

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。吉本隆明夏目漱石を読む」筑摩書房2003年5刷帯付、井上俊夫「初めて人を殺す 老日本兵戦争論岩波現代文庫2005年初版、計210円。吉本隆明1924年生まれで戦時中は勤労奉仕、井上俊夫は 1922年生まれで徴兵、戦地へ。二歳の違いで内地外地と振り分けられる。生まれた時の運不運を感じる。今朝も小雨なので徒歩。梅雨寒という言葉はあるけど、この時季の雨はなんというのだろう。氷雨は晩秋初冬の雨。ロンドンは年中こんな天候なんだろうか。

 六嶋由岐子「ロンドン骨董街の人びと」新潮文庫2001年初版を読んだ。ロンドン大学に学び、ロンドンの老舗骨董商スピンクに日本人で初めて就職した著者が体験した自伝的エッセイ。その国の企業で働いたからこそ見えてくる英国人気質が、鋭い観察眼と公正な目で語られている。特上のエッセイだ。林望の解説から。

≪だから、彼女の記述は、とても厳しい。決して甘くはないのだ。イギリスとイギリス人あるいはイギリスの文化に対して、その良いところ、悪いところ、愛すべきところ、嫌悪すべきところ、それらが過不足なく公正に冷徹に描き取られている。これがなにより貴い。≫

 本文から。

≪美術工芸品は、それを選んだ人の本質を物語る。≫30頁

≪恋は国境を越えても、階級を越えることはないのだそうだ。≫34頁

≪古美術への関心の度合いが国の成熟度と比例するのもまた、事実なのだろう。≫97頁

≪どんなに奇麗事を並べても、古美術売買が没落し貧窮した貴族の弱みにつけこんで成り立つ職業であることも事実なのだ。≫101頁

≪そして老紳士は、次のような教訓を語ってくれた。人生に出会いは多いが、下手に飛びつきなさんな。これというものと出会うまでは、ゆっくりと丹念に直感を磨き、これだと直感したときには、高い代価を払ってでも手に入れるそれが知恵のある大人なのだ、と。≫149頁

 知恵のある大人。これが難しい。