白と黒の微妙な関係

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。「いい人に会う」編集部編『忘れられない、あのひと言』岩波書店2009年初版帯付、西岡常一ほか『木のいのち木のこと(天・地・人)』新潮文庫2005年初版、計210円。

 河合隼雄『影の現象学思索社1976年初刊1980年12刷を再読中。谷川俊太郎の詩「灰についての私見」が紹介されていた。

≪このような白と黒の微妙な関係を、谷川俊太郎は詩人の目をもって的確に見ぬき、「灰についての私見」として記述している。≫

その詩が収録されている『定義』思潮社1975年初版を本棚から取り出して読む。以下全文。

≪どんなに白い白も、ほんとうの白であったためしはない。一点の翳もない白の中に、目に見えぬ微少な黒がかくれていて、それは常に白の構造そのものである。白は黒を敵視せぬどころか、むしろ白は白ゆえに黒を生み、黒をはぐくむと理解される。存在のその瞬間から白はすでに黒へと生き始めているのだ。
だが黒への長い過程に、どれだけの灰の諧調を経過するとしても、白は全い黒に化するその瞬間まで白であることをやめはしない。たとえ白の属性とは考えられていないもの、たとえば影、たとえば鈍さ、たとえば光の吸収等によって冒されているとしても、白は灰の仮面のかげで輝いている。
白の死ぬ時は一瞬だ。その一瞬に白は跡形もなく霧消し、全い黒が立ち現れる。だが──
どんなに黒い黒も、ほんとうの黒であったためしはない。一点の輝きもない黒の中に目に見えぬ微少な白は遺伝子のようにかくれていて、それは常に黒の構造そのものである。存在のその瞬間から黒はすでに白へと生き始めている……≫