太田忠司『五つの鍵の物語』講談社ノベルス2007年初版を読んだ。鍵にまつわる五編の幻想的ホラー系小説を収録。
《 鍵に魅入られた人間……その言葉を、私は半ば反発を覚えつつも受けとめた。認めたくはないが、確かにそのとおりだ。》「17世の鍵」より
私も鍵には惹きつけられている一人だ。ガラクタ鍵を数十個、持っている。星新一のショートショート「鍵」の印象が強くて、「星新一ショートショートコンテスト」でデビューした太田忠司のこの短編集を期待して読んだけれど、期待外れだった。既視感、既読感がついてまわった。はなはだ残念。ネットでの評判はよいけれども、私は駄目。文章が浅い。アイデアが陳腐で驚きがない。私にとってのお手本は、中井英夫『幻想博物館』講談社文庫。求めるものが高すぎるのかもしれない。
気分転換に本棚を眺めまわし、辻真先『急行エトロフ殺人事件』講談社文庫1985年初を選ぶ。「傑作SF・本格・ユーモア・トラベル・反戦・ミステリー」と、大内茂男が解説で書いているが、傑作かどうかはさておいて、他はその通り。序章が「昭和五十×年・秋」、終章が「一九八×年・秋」。その間に「昭和十九年十一月」から「昭和二十年七月」までの事件がはさまる。その殺人事件の時期は、SFでいう「IFの世界」。すなわちパラレル・ワールド=別の歴史世界。昭和十九年、日本はアメリカとは未だに開戦していない。そんな奇妙だけれども、やたらリアリティのある日中戦争下の日本(東京・名古屋・エトロフ)が舞台。見事な離れ業に拍手。
《 十年のあいだ、手塩にかけた店を亡くしたのだ。それも、客の入りがわるいからではなく、空爆を想定した強制疎開の対象となって。》231頁
原発災害の強制疎開を連想。きょうは沖縄戦「慰霊の日」。合掌。
《 私にとっての辻真先ミステリーのベストスリーは、「ブルートレイン北へ還る」、「アリスの国の殺人」、そして、この「急行エトロフ殺人事件」である。》大内茂男
ネットの拾いもの。
《 「菅抜き」
のはずが、閂とかwww》