「死蝋の市場」

 島田一男『死蝋の市場』光文社文庫1989年初版を読んだ。蝋(ロウ)は本来は旧字体。1965年の発表。「刑事弁護士南郷次郎」シリーズ。しょっぱなから「読むなら今でしょ」だ。御茶ノ水駅の夜。

《 雪はいよいよ激しく降りしきり、地上のもののすべてを白くつつんでいる。……国電がとまって、すぐ発車していったが、改札を通る人影はなかった。 》 8頁

 ハードボイルド・タッチに進む。

《 しかし、今までは警視庁も手を出せなかった。殺人事件の裏づけがなかったからである。/ つまり、彼らは、それほど巧妙に三人の男女を抹殺していたのだ。 》 148頁

 妻と一男一女のあった南郷次郎はここでは独身。昭和四十年の艶笑お色気サービスもたっぷり。「酒と女と賭博の桃色クラブの秘密」。

《 とにかく、すばらしい胸だった。こまかいウロコ模様の渋い着物に包まれているが、乳首のボタンを押して、ギーッと扉を開けると、甘酸ッぱい葡萄酒が、ドック、ドックと、吹きだしてくる酒蔵を連想させる豊かな胸である。 》 17頁

《 「船に弱い奥さんでも、船酔いしない方法があるの知ってる? それはね、ご主人に抱っこしてもらって、船に乗っていることなんか忘れるほど夢中にしてもらえばいいの」 》 50頁

《 「今までは僕がマンボを踊らされていた。これからはやつらにロックン・ロールを踊らせてやるよ」 》 136頁

《 「僕は君が好きだよ」
  「親子のように? 兄妹のように? 恋人のように? それともお友だちとして?」
  「もちろん、三番のやつだ」
  「うそ……。何もしてくださらないじゃありませんか」 》 200頁

《  看護婦が、赤い液体をいれたコップを持ってきた。
  「これは?」
  「葡萄酒ですわ」
  「ウィズキーのほうがいいなア」
  「お気の毒ですけど、この病院には、酒場(バー)の設備がございませんのよ」 》 228頁

《 「頭のいいやつだな。石鹸──甘いもの屋──衣料品……、戦後の日本人が欲しがったものを追っかけたわけか」 》 116頁

 今は何を欲しがっているのだろう。

 島田一男は初期の『古墳殺人事件』『錦絵殺人事件』『上を見るな』『その灯を消すな』『死蝋の市場』『社会部記者』の五冊を読んだけれど、当時の世相風俗を映していてなかなか面白い。よって時代を感じさせるが、それが古臭くない。どれも良かった。娯楽読み物作家としての矜持を感じた。所持している文庫本はほかに五冊。手元の文庫の目録で数えると、春陽文庫で約70冊、徳間文庫で50余冊、光文社文庫で約30冊。双葉文庫、扶桑社文庫でも出ている。文庫では何冊出ているんだろう。全部を集めている人はいるかなあ。

 ネットの見聞。

《 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が12日発表した、世界各国の報道の自由度を順位付けした報告書で日本は昨年の53位から59位に後退した。東京電力福島第1原発事故の影響を取材しようとするとさまざまな圧力を受けるとされたほか、特定秘密保護法の成立が響いた。

 日本は、各国を5段階に分けた分類で上から2番目の「満足できる状況」から、主要先進国で唯一、3番目の「顕著な問題」のある国に転落。東アジアでは台湾や韓国を下回る自由度とされた。 》
 http://www.47news.jp/CN/201402/CN2014021201001249.html

《 打ち上げでは久しぶりに細野豪志さんと懇談。明日は(て、もう今日か)国会で代表質問をするそうで、安倍政権についていろいろ意見交換しました。 》 内田樹
《 今日は小泉進次郎さんとも寄席ではご一緒でした。細野さんと二人並ぶと迫力ありますね。 》 内田樹

《 ドリンクメニューの分類がなかなか洒落ている。
  幸せな気分になりたい時は・・・・・・カクテル
  咽喉が乾いていたら・・・・・・ビール
  本格的に飲みたい時は・・・・・・ウィスキー、テキーラ
  特別な日に・・・・・・シェリー酒、ワイン
  間違って来てしまったら・・・・・・ジュース、ソフトドリンク  》

 きょうは時々小雨の天気。こんな日はソフトドリンクかな。炭酸水しかない。