「おんなのことば」

 牧村慶子展最終日。伊豆高原の会場まで電車バスを乗り継いでいく。帰りは知人の車。

 茨木のり子選詩集『おんなのことば』童話屋1999年18刷を読んだ。選者の田中和雄は「あとがきに代えて」で『詩のこころを読む』 岩波ジュニア新書にふれて。

《 迂闊にもそこに茨城さんご自身の詩がないことにしばらくは気がつきませんでした。(略)私はいつの日か、自分の手で 茨木さんの詩集を編んで、この「詩のこころを読む」の対の本にしたいものだと夢みるようになりました。 》

 三十五編どれもいい。というのはうなずく詩ばかりということ。「自分の感受性くらい」「わたしが一番きれいだったとき」 といった代表的な詩は当然あるが、最後の詩「汲む」から。
   あらゆる仕事
   すべてのいい仕事の核には
   震える弱いアンテナが隠されている きっと……


 もう、うんうんと深くうなずくしかない。

 「最上川岸」から。

   和菓子屋の長男よ
   あなたがそれを望まないのなら
   餡練るへらを空に投げろ


 私は空に投げず、全うして次の私の人生を始めた。どの詩も自分の人生と照らし合わせて読んでしまった。平易な言葉で 胸にぐさりとくる詩。世の中のおかしなことをおかしなことと認識し、そのことを直截に表明せず、しなやかに潔く示唆する。 平易な表現ゆえ、詩句の描く思いのほかの表現の深みに気づかない読み手もいよう。

 足裏に地を感じ、風を全身で受け留め。眼差しは正面ななめ上を見据えている、茨木のり子の詩。

 昨日の毎日新聞、西水美恵子「時代の風」より。

《 個人の価値観は、社会経済の構造変化に適応するよう変わるのが常。とはいえ、新しい価値観を社会の主流にするのは、 世代交代である。それに人口の高齢化がブレーキをかけるのか、欧米諸国に比べると、わが国の価値観の変化はまるで氷河の 動きのようだ。 》

《 若い世代の価値観は、未来を映す鏡であろう。 》

 若い人がどんな価値観を持っているのか不明だが、価値観の変化がホント感じられないこのごろ。一気に変化するのだろうか。
 と悲観していたら、朝刊一面トップ記事は「二つの『原宿』ギャップ」。原宿では若い世代=デフレ世代が「1000円でも吟味」。 対する年配者の「原宿」、巣鴨では年配者=インフレ世代は「高品質を重視」。

 ネットの拾いもの。

《 くわえていた銀の匙が喉につかえる。 》