「 東洋の至宝を世界に売った美術商 」

 昨日買った 朽木ゆり子『東洋の至宝を世界に売った美術商 ─ハウス・オブ・ヤマナカ─』 新潮文庫2013年初版を読んだ。山中商会とは。

《 『新潮世界美術辞典』にも、『日本美術史事典』にもまったく載っていないのである。 もちろん『広辞苑』にも、『日本国語大辞典』にも出てこない。 》 解説

《 美術史からも経済史からも消えていってしまった山中商会がよみがえる。 》 解説

 明治末から第二次世界大戦の間、大阪から雄飛、ニューヨークに旗艦店を構え、半世紀にわたって 大富豪たちに日本、東洋美術を売っていた美術店山中商会。その興亡を描いた労作。読みやすい。 私的に興味を惹かれた箇所をいくつか。

《 時間を一九四一年に戻す前に、まず開戦後、日本ならびに日系アメリカ人がアメリカ合衆国で どう取り扱われたかに関して、アメリカ西部と東部では状況が大きく違っていたことを指摘して おきたい。西海岸で、大部分の日本人と日系アメリカ人が自宅を追われ、収容所に入れられたことは よく知られているが、東海岸ではそういったことはなかった。ほとんどの日本人と日系アメリカ人は、 肩身は狭かったかもしれないが、普通の生活を送ることができた。それはなぜだったのか。(中略) しかし、軍事地域に指定された場所以外に住んでいれば、強制立ち退きの対象とはならなかった。 》  304-305頁

《 冨田は帰国してから古美術商となり、スイスの実業家で蒐集家、アルフレッド・バウアーの アドバイザーとなり、彼の中国陶磁器コレクションを世界的なレベルに引き上げるのに一役かった。  》 137頁

 東京の出光美術館で観て仰天。でも北一明の茶碗は遜色ないな、と思った。その後大阪へ巡回。 阪神淡路大震災で数点破損したという新聞記事。

《 この書類では、はからずも特定の商品の原価の安さが露呈している。 》 330頁

 その書類では、川瀬巴水の版画が、原価1ドル63セント、売値25ドル。

《 ニューヨーク・タイムズは、ウィスコンシン大学が、美術専門誌『国華』の創刊号 (一八八九年)から六〇一号(一九四〇年)までのセットを、二八五ドル(二〇〇九年の 貨幣価値で約三万四七〇〇ドル)で落札したことなどを報じている。 》 364頁

《 異文化間の交流に、美術品の移動はつきものだ。美術品の場合は、人に先がけてその価値を 発見した人々によって、新たな文化が創られることもある。そして、価値を発見するのが 外国人である場合も稀ではない。 》 401頁

 同感。先物買いも面白いが、埋もれた価値を発掘することも面白い。

 ネットの見聞。

《 私も去年、大学の入試問題に自著が問題文として引用された。 》 大野左紀子
 http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20150118/p1

 ネットの拾いもの。
《 「泣ける本を教えてください」
  「版元倒産で絶版になったので神保町と高田馬場を駆けずり回ってようやく見つけて 数万円出して買ったけどまもなく版権確保した他所の出版社から割とお安く 復刊が発表された本」 》