「絵が聞こえる」

 ジャズの話題はまだ続いていた。「絵が聞こえる」の章。

《 言い訳にもならないのだが、去年の秋以来、私は一日に何時間という具合には眠っていない。 夜昼構わずレコードを聴き、もうとても起きていられないというところまで聴いてそこでゴロ寝する。 気まぐれといえば気まぐれでしかないそんな日が、ずっと続いていたのだ。 》 135頁

《 いったい、ジャズは私にとって何なのだろう。自分にも分からないが、半年程前から騒ぎ出したに 過ぎないモダン・ジャズが、私の感覚の相当深いところまで滲透していることは事実のようだ。 》  136頁

《 正月の間、私はジャズを聴きながら、もっぱらリズムということについて考えていた。 といってもいいし、音の存在感について考えていたといってもいい。音の存在感ということから リズムについて考えだしたのだ。いい演奏を聞くと、音は聞こえているというだけでなく、何か 物としてそこに在って、目に見えるような気がする。音が存在するのだ。この不思議さ。 》 137頁

 異議なし。大事なことが書かれているので引用は長くなる。が、当然省く箇所もある。

《 音を存在させるのはリズムではないだろうか。そう気が付いて、気に入ったレコードを繰り返し、 繰り返し聴いた。確かにそうだ。ハーモニーは音の美しさだが、音の存在感はリズムなのだ。リズムが 音を存在させる。それに、ハーモニーはなくてもリズムがあれば音は美しい。 》 137頁

《 リズムとはもっと何か別のもの、演奏者の肉体や感情の動きそのものとも言えるのではあるまいか。 (中略)リズムによって音は人間と係りを持つのだ。 》 137頁

 この若々しい文章。悪くいえば青臭い文章。

《 リズム、リズム、そればかり考えていた、たぶんそのせいだろう。ゴッホがパリに出て 印象派に触れるあたり、会場では〈フランスの要素〉に分類されているその最初のあたりから、 ゴッホの絵の中に、何か脈々とリズムが響き始めるような気が私はするのだ。あれは新しい色と光に出逢った ゴッホの鼓動でもあるのだろう。四ビートを打つドラムのトップシンバルのようにかすかに鳴り出す。 》  138頁

《 〈刈取る人のいる麦畑〉からソニー・ロリンズのテナーが私に聞こえたのは、これも正月中、私が 繰り返しロリンズの《サキソフォン・コロッサス》を聴いていたからだろう。 》 138頁

《 こんなふうに、勝手気儘にゴッホソニー・ロリンズに結び付けたりするのは気紛れが過ぎるかも しれない。だが、いうなればこれは私の即興演奏である。これもモダン・ジャズが私にさせる業だろう。 しかし、私は、ソニー・ロリンズゴッホが分り、ゴッホソニー・ロリンズが分るような気がするのだった。  》 138頁

《 二つのものは二つでありながら一つに融けあい、一つが他の一つを生かしながら壮大な世界の実現を めざして進んで行く。ゴッホモーツァルトも、やってることは同じなんだな、と私は思った。 》  139頁

 椹木野衣『後美術論』美術出版社へ連想が働く。その帯文。

《 それは、音楽と美術の結婚から始まる。 》

 空海の言葉。

《 五大にみな響きあり、十界に言語(ごんご)を具す、
  六塵(じん)ことごとく文字(もんじ)なり、法身(ほうしん)はこれ実相なり。 》

 私がジャズとリズムを考えていた一九七○年代後半、中村雄二郎の本でこの言葉に出合った。

《 〈汎リズム論〉つまり「すべてはリズムである」という考えを推しすすめていく上で、ほかのなによりも 強力な支えになった。 》 中村雄二郎『人類知抄 百家言』朝日新聞社1996年初版

《 それはそれとして、微速度撮影で捉えた植物の生育の話を聞いて、私は、あ、これがリズムだなと思った。 リズムは音階ではない。譜面の音階どおりに演奏される音にはリズムはない。一つの音から次の音へ移る間に、 音がどれだけの深さの曲線を描いているかがリズムだ。だから、音色(ねいろ)というものも結局はリズム なのだ。リズムで生まれる。 》 140頁

 ネットの見聞。

《 安倍政権が安保法制をごり押しすることと、文科省が国立大学から人文社会科学を放逐しようとすることは つながっている。政府の政策に対して、歴史、哲学、法理、民主主義原理などの普遍的な価値に基づいて 反対するような独立した知性は日本に要らないという発想が、現政権を貫いている。 》 山口二郎
 https://twitter.com/260yamaguchi

《 【悲報】総理補佐官の礒崎陽輔 (@isozaki_yousuke)が、ツイッターで喧嘩をふっかけるも論破され、 相手が10代女子とわかるとブロックして逃走←バカ 》
 http://togetter.com/li/832562

 ネットの拾いもの。

《 特定秘密認定「磯崎陽輔は馬鹿」。漏洩したら、懲役10年、罰金1,000万円。 》

《 クールジャパンは我が国の重要な施策ですから、国立大にはアニメ学部マンガ学部コスプレ学部の創設を 義務付けていただきたい。 》