「元日」

 去年最後の夜の最後に聴いた音楽は、前川清唄う『恋さぐり夢さぐり』。EPレコードで。
 https://www.youtube.com/watch?v=-ijiHPBqP50

 むせび泣くテナー・サックが背筋をしびれさせる。これまたレコードの方が良い。奥行きも深みも段違い。 赤葡萄酒に酔い手元不如意につき 原大輔『流されて』はパス。レコードには会った時に彼がしてくれたサイン。
 https://www.youtube.com/watch?v=4HbUHKGpw_4

 いつもどおりの朝。朝食後、洗濯物と布団を干して、裏のお寺の境内での町内会新年挨拶の集まりへ。 何年も最年長、95歳の長老が挨拶。大正に満州で生まれ、シベリア抑留から生還。燃料もないのに戦争なんか するからひどい目にあう、と戦争を戒める。ボケちゃいない。

 ブックオフ長泉店へ自転車で行く。文庫本を五冊。佐藤信夫『レトリックの記号論講談社学術文庫 1993年初版、同『わざとらしさのレトリック』同1994年初版、井波律子『中国的レトリックの伝統』同 1996年初版、ポール・クローデル『繻子の靴(上・下)』岩波文庫2006年2刷、計二割引432円。

 松浦寿輝『明治の表象空間』を少し読む。大槻文彦(1847─1928)の『言海』(明治ニ四年)。

《 近代的体裁による初めての日本語辞書『言海』の歴史的意義は二つあり、それは、辞書本文に表れた 「網羅性」と文典部分の「語法指南」が明示する「システム性」であるが、この両者は結局は表裏一体を なして成立していると言ってよい。 》 282頁「分類──システム(一)」

《 『言海』はいわば「普通語」について「普通」に書いているだけの著作であり、このテクストの 歴史的意義はその点にこそある。実際、そこに収録された語彙の大部分を占めるのは、当時の「普通」に 教養ある日本人ならば直感的に理解可能なものばかりだと言ってもよい。ただし、意味を直感的に理解 していることと、それを正確に定義する簡潔明快な──すなわちこれもまた「普通」の──文章を 書き下ろすこととの間に、天地の隔たりがあるのは言うまでもない。大槻は、「普通語」を「普通」に 記述する或るメタ言語の文体を創始したのである。しかも彼は、それを「普通語」の全体に対して 網羅的に行った。 》 284頁「分類──システム(一)」

《 吉増剛造の詩などへふと連想をそそられないでもないこの簡潔で「軽捷」な記述に、当時のどの詩にも なかった美を感受するという一種倒錯的な「近代」意識は、本書全体の主題と決して無関係ではないはずだ。

  きつ-ね(名)[狐](ねハ美称)古名、きつ。異名、野干(ヤカン)。たうめ。たうか。獣の名。 形犬ヨリ小ク、毛、黄赤ニシテ、腋ノ下、白シ、喙(クチ)、尖リ、尾、大ク、軽捷ニシテ疾ク走ル、 人家ニ近キ山ナドニ穴居ス、性甚ダ狡猾ニシテ、夜、人家ニ入リテ、鶏ヲ捕リ、食物ヲ窃ム。又、黒狐、 白狐アリ。 》 298頁「秩序──システム(ニ)」

 〈狐〉といえば書評家故山村修。文筆家中野翠の新刊『いちまき』新潮社で、彼女が〈狐〉と 親戚関係にあることが記されている(書評より)。狐『野蛮な図書目録』洋泉社1996年初版、山村修 『もっと、狐の書評』ちくま文庫2008年初版が本棚に。で、私は感想雑文を書いている、と自覚。 それでいいのだ。

 ネットの見聞。

《 安倍首相と山本太郎議員の大晦日が違い過ぎると話題に!山本太郎議員は炊き出しのお手伝い⇒ 安倍首相は高級料理や映画等・・・  》 真実を探すブログ
 http://saigaijyouhou.com/blog-entry-9397.html?sp

 ネットの拾いもの。

《 元日か。一年ぶりだな。 》

《 初日の出を見る人を見る会に行ってきました。メタ初日の出。 》