『実在への殺到』再び・三

 清水高志『実在への殺到』水声社2017年初版を再読了。二度読んでも不明なところは不明。何回読んでも難解だろう。しかし、気になる。面白いのだ。 それにしても熱い。不注意に火傷するほどに。昨日のオツムの加熱に懲りて、きょうは休み休み、本を離れて頭を冷やして読み進めた。また読むだろう。

《 道具存在のもつ目的が、事後的に改変されるというあり方そのものが、普遍的に思考される必要がある。 》 「第7章 グレアム・ハーマンについて」  159頁

 挿絵として使われた味戸ケイコさんの絵が額装され、「絵」として流通する。机上にはペーパーウェイトとして再生している、鉄路と枕木を固定した釘。

《 事物と事物は、それぞれに能動と受動の役回りを演じるが、一方が他方になんらかの能動的な働きかけを行ったからといって、他方の意味がそれで汲み尽くされる わけではない。 》 「第7章 グレアム・ハーマンについて」 160頁

《 この《汲み尽くし得なさ》を、実在の脱去( withdrawal )という風にハーマンは呼んでいる。 》 「第7章 グレアム・ハーマンについて」 註(4) 255頁

《 モノの脱去という主題を彼は、固定された実在としての神ではなく、各々の実在的オブジェが担う世界像へと発展させていったのだった。 》 「第8章  機会原因論アニミズム」 179頁

《 オブジェクトが成立することは、過去の経験のある種の持続であるのだが、それはある組み合わせを、あり得べき組み合わせの変化のうちから選択することでも ある。その意味で、それは絶えざる制作でもあるのだ。精神に相当するのもまた、こうした制作(もしくは再制作)を通じて、自己制作されると捉えるべきだろう。  》 「第8章 機会原因論アニミズム」 188頁

《 ハーマンの議論を成立させるために必要なのは、オブジェクトの擬人化ではなく、むしろその積極的なアニミズム化である。また、それを理論的に基礎づける ことだ。アニミズムおよびパースペクティヴィズムを、複数の記号過程が競合する世界像として解釈し、さらに記号一元論と経験一元論を同じものの両面と捉える ことによって、こうしたアニミズム化ははじめて可能になる。 》 「第8章 機会原因論アニミズム」 200頁

《 ハーマンの思想は、このような機会原因論アニミズムとして、さらに発展させられるべきものである。そしてそれは、人類の経験主義的な知の計り知れぬ 古層からある魅惑や恐怖を、私たちに改めて開示するものである。 》 「第8章 機会原因論アニミズム」 204頁

《 ハーマンのオブジェクト指向哲学においては、第三項としてのオブジェクトが次々置かれつつ、その役回りが入れ替わってゆく独自の機会原因論的な発想と、 入れ子=袋詰め的な発想がとりわけ重視された。 》 「第9章 モノの人格化」 214頁

《 西田(幾多郎)の時間論、そしてそれを巡って展開される他者論、そしてオブジェクト(物)としての他者論は、現代の哲学においてなおいっそう問い直される、 人類にとっての根源的な問いに、驚くほど豊かな示唆を与えてくれるのである。 》 「第9章 モノの人格化」 234頁

 哲学の解釈、解説ではなく、哲学そのものを未来へ向けて押し広げ、深めていこうとする、生き生きとした意気込みが熱気をもって伝わってくる。だから わからなくても再読したくなる。椹木野衣『震美術論』同様、意気に感ずる。今年の本は抜きん出ている。

 寒風で食料買い出し以外の外出は控える。読書が進む。

 「次善の策」を実感するこの頃。交渉事でこちらの考える最善の策は、相手にとっては最善ではない。次善の策で決着する。友だちの商業デザイナー曰く。 最良のデザインではなくて次に良いくらいのデザインが、よく採用される、と。これがファインアートと呼ばれる世界では、作者本人が「これが最高」と自認する 作品は、鑑賞者からすれば「?」のつくものが多い。最善、最良、最高と当人の思うモノがすっきり通用しない世の中。時が経ち歳月にさらされて、真に最善、最良、 最高のものが浮かんでくる。その時はすでに遅し、のことがままある。時代に先んじている、今は気づかれない、過去の優れた作品を見出す面白さ。今は気づかれない、 未来に評価される予感の作品を手にする面白さ。

 北一明の回顧展を開くとしたら、どんな題名、キャッチコピーがいいだろう。思い浮かんだもの。

《   「曜変」?
    いえ
   「耀変」です。

    深遠の美 夢幻の美  》

 ネット、いろいろ。

《  伝統を知らずに 僕らは生まれた♪
  伝統を知らずに 僕らは育った♪
  大人になぁってぇー(以下自粛) 》 赤城毅
 https://twitter.com/akagitsuyoshi/status/933707955404390400

《 天皇陛下くらい好きな日に辞めさせてあげたらいいのに。 》