「追記と余談」

 「レオナルド・ダ・ヴィンチの方法」1894年の続編「追記と余談」1919年を同じ『世界の名著 続12 アラン/ヴァレリー中央公論社1974年初版で読んだ。 冒頭が笑いを誘う。

《 あのような大仰な、まことに羊頭狗肉の題名についてはなんとしてもお詫びをしなければならない。あれをつけたときにはなにもそんな大見得を切ってみせる つもりはなかったのである。 》 334頁

 四半世紀後の文章には始めは余裕がある。

《 この蔑みは種々のスケッチ画で明らかである、というのは何かに対する蔑みの極はまたまさにそのものを審(つぶさ)に見届けることだからである。 だからこの人はあちこちに睦みの最中(さなか)のすさまじい断面図、交合の解剖図を描いているのである。 》 349頁

 1995年に東京都庭園美術館で催された「レオナルド・ダ・ヴィンチ 人体解剖図」展で購入した絵葉書には「性交中の男女の正中断面図」「胎児と子宮の内部」 なる解剖図がある。それが何にもエロティックでないのが不思議だった。上記の文章でやっと腑に落ちた。

《 この人は始めにはまず万人共通の必要と現実とに従わされている自分を眺め、やがて次にはそれを離れた認識の秘事に転じるのである。この人は我れ我れ流儀に 見るとともにまたこの人流儀に見るのである。己が本性を判じ、己が作為をわきまえている。この人は不在にして現在するのである。(中略)自分というものを ことごとく通常の事例や動機だけで律するわけにはいかないことをよく感じているのである。生きること、ましてや富貴に生きることなど、この人にとっては 手段にすぎない。(中略)愛すること、それがこの人にあるのかどうか私にはわからない。 》 353頁

《 変幻巧妙の音楽が極度の注意の連続連鎖と勝手な間睡(まどろ)みの合間とをつなげつつ、刹那に浮かぶ心の内の内なるものの全体帰一をあたえてくれる ように、まさに心の均衡のよろめきこそ存在のさまざまな在り方に気づかせてくれるのである。われわれの内には実(み)は成さぬかもしれないまでも、 生まれてはくる感応型式をいくつか持っている。これらは生活の容赦ない批判からまぬがれている瞬時であるが、それはわれわれの人間存在全体としての 機能活動には抗すべくもなく、われわれのほうが破滅するか、それともこのほうが消散するかである。 》 357頁

《 こういう境地を通り抜けてみたことのない者には、自然の光、平凡極まるという場所もその真価は解らないのである。世界の真の無常は解せぬ。(中略) 不思議とすべきは、事物が在るということではなく、それがかくあって、他のごとくにはないということである。 》 358頁

《 意識は、ただ一つの世界にではなく、いくつもの世界を要素とするもっと高次の或る組織体と照応または呼応していることがわかってくる。 》 359頁

 ここの数ページの展開は密度がやたらに濃い。いや濃すぎる。

《 ……それがもうひとつゆけば、もう意識には必要な実在として数えうるものはその本質も未知なるただ二つの実体、〈我れ〉と〈 X 〉とだけになろう。 両者はいずれも一切物からの抽象、一切物の中に含まれ、一切物を含むもの、合同にして同質なるもの。 》 359頁

 続く文章は、なにやら埴谷雄高の未完の長編『死靈』の世界へとつながっているような。

《 精神の活動は究極には精神をこのような極限・基本の考えに押しつめないはずはない。 》 362頁

 新年そうそう凄い熱風にぶっ飛ばされるような文章を読んでしまった。

 穏やかな元旦。屋上に出てびっくり。こんなに雨が残っているとは。去年の汚れを洗い流してくれたか。
 朝、年賀状を見て隣組の新年挨拶会に顔をだす。97歳になる長老は四年間のシベリア抑留体験者。戦争はしてはいかんと力説。
 昼過ぎ用事を済ませた足でブックオフ長泉店へ寄る。瀬木慎一『名画の値段─もう一つの日本美術史─』新潮選書1998年初版帯付、『このミステリーがすごい! 2014年版』宝島社2013年初版、『このミステリーがすごい! 2015年版』宝島社2014年初版、計2割引258円。
 おお、スーパームーン

 ネット、いろいろ。

《 神社に行くと、「二礼二拍手一礼」が正式な作法と強調されている。だが、そのやり方は、明治8年の「神社祭式」で定まったものがもとになっていて、 明治以前には存在しなかった。明治以前の神仏習合の時代には、神と仏は同時に祀られていたので、合掌と拍手の区別はできない。 》 島田裕巳
 https://twitter.com/hiromishimada/status/947304361742364672

《 木内建設?によるマンション建設が三島の湧水地を壊す危険性が迫る 》 グラウンドワーク三島
 http://www.gwmishima.jp/modules/information/index.php?lid=1798&cid=1

《 「そのうち読もう」と言いながら年を取り、片づける体力やモチベーション、判断力や遂行力も低下して、人生の後半を積本に煩わされながら、 やがて切なくこの世を去る人たちを、たくさん目にしてきました。 》 カツオ・イシシロ
 https://twitter.com/rich_twt/status/947636120988221440