『日本のライト・ヴァース I』(閑人亭日録)

 本棚からやっと見つけた本、谷川俊太郎・編『日本のライト・ヴァース I 煖櫨棚上陳列品一覧』書肆山田(発行日の記載はなく、谷川俊太郎の「あとがき」に「一九八〇年十一月」)を再読。読みたかった天野忠「虫」をやっと読む。

《  虫

  病気が癒ってしまい
  すっきりした腹の上に
  新しい晒(さら)しをくるくると巻いて
  せったをはいて
  看護婦さんに仁義をきって
  あばよッ
  と出て行ったが
  裏門から入って来た霊柩車に
  轢かれて死んだ
  萬(よろず)幸多郎……

  押さえると
  直ぐ死ぬ虫のように
  彼は生きた。  》

 谷川俊太郎「あとがき」の書き出し。

《 東京の神楽坂に「軽い心」というキャバレかなんかがあって、近くを通るときいつもぼくは感心してそのネオン・サインを見上げるのだが、英米詩で言う<ライト・ヴァース>にうまい訳語のみつからないのは残念だ。<軽い詩>なんて言ってみても、どうもぴったりこない。 》 94頁

 昨日話題の東君平の詩もライト・ヴァースと言えそう。本の帯のキャッチ・コピー。

《 心と知性が指さきをからめポエジーのゆるやかな波間にたわむれる── 》

 詩人の藤富保男に「軽業師」ということばがあったな。小体な薄い堅牢本に相応しい。

 ネットの見聞
《 実は酔ってなかった「マタタビ反応」 ネコの生態を研究する岩手大農学部教授・宮崎雅雄さん<ブレークスルー 2024> 》 東京新聞
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/319770

東君平(閑人亭日録)

 東君平の私家版豆本『くんぺい ごしちご アフリカえほん』1981年9月 著者・発行者 東君平(縦85mm横90mm)を開く。91頁の本。一編四頁の構成。おしまいの一編、最初の一頁(86頁)は黒い地に白い字(切り絵)で「バオバヴの/かごにおもいで/つめきれず」。左頁(87頁)は白地に黒い切り絵。88-89頁は短文「バオバヴのかご」。その結び。

《 バオバヴのかごは くちが おおき
  くて なんでも たくさん はいり
  ますが たびのおもいでは おおす
  ぎて このかごには はいりきれま
  せん。

  バオバヴの かごにおもいで つめきれず  》

 東君平の本は画集をはじめ、何冊かもっているが、目の届く範囲には『白と黒の歌 二十一歳』サンリオ出版 初版・一九七五年五月十日がある。サイン本。右頁に詩。左頁に切り絵。

《  白と黒のうた

  ぼくのうた
  白と黒のうたは
  しろうとくろうの
  うたで
  素人苦労のうたと書きます 》

《  風

  風はみんなに吹く
  こんなあたり前のことが
  ついこのごろわかった
  うれしい 》

  東君平の詩、短文エッセイ等、気がつけばずいぶん愛読していた。どれも軽く読めるエッセイだが、ほろ苦い隠し味が効いている。軽く読めるため、意外と評価が軽いのかも知れない。深刻な文章は誰でも(!)書ける。明快、簡明な切り絵も、文章と同じく苦労を感じさせないゆえに、軽く思われているのかも。じつにセンスがよいのだが。
 私家版の豆本『くんぺい ごしちご アフリカえほん』は、新聞記事で知って注文した。もっと生きていてほしかった。記念館へ行きたくなった。
 https://kunpei.net/
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%90%9B%E5%B9%B3

芸術の慰撫(閑人亭日録)

 味戸ケイコさんの絵を身近で何気なく見つめているとき。北一明の茶盌(茶碗)を手にとり何気なく見つめているとき。なにかしら気持ちが落ち着き、じっと魅入っている。時の経つのを忘れている。ふと気づき、もっと見つめていたいと切に思う。無心であり、夢心のとき。夢心地から覚め、ふっと息をを吐く。世界は変わらず世界のまま。けれども、私の心は少しゆったりと穏やかに、晴れやかになっている。言葉にならないゆるやかな充足感に、しばらくして気づく。私だけの自足充足した時間。絵と茶盌という精神的固形物が私の心を平穏にし、和ませ、生気を少し補う。芸術の慰撫ということを思う・・・。生きねば。

 味戸ケイコさんの絵は、抒情画の世界を意図せずに深めた。
 北一明の茶盌(茶碗)は、陶芸世界に新たな美を創造した。

「わたくしは誰?」(閑人亭日録)

 青梅市歌人王紅花(筆名)さんから送られた個人誌『夏暦』五十八号の題は「わたくしは誰」。三十首ほどの作品に飛び抜けた一首が見つからなかったが、「わたくしは誰?」という結句が引っかかった。埴谷雄高の長編小説『死霊』のメインテ-マ「自同律の不快」を連想。哲学的に、ではなく「わたくしは誰?」と軽く自らに問いかけてみる。姓名? 職業? 住所? 思想? 何と答えるのだろう。
 今の私ならば、私の推す美術作品を後世に遺し伝える方策をあれこれ思案している一市民・・・かな。
 手紙を三通、葉書を一葉書き上げる。読めるかなあ・・・・きょうも暮れゆく。

 ネットの見聞。
《 「リニア」の遅れは静岡だけのせい? ほかの工区でも後ずれする工事、未解決の問題を考えた 》 東京新聞
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/319345

感想に頭を使う(閑人亭日録)

 個人短歌誌、業界紙連載記事、葉書等届いた文面に目を通す。さて、どんな感想を認めるか。いつも悩む。さらに困るのは、字がさらに下手になったこと。パソコンに入力すれば読みやすい字体が並ぶのは楽~だが、ここには プリンターが無い。一件はメールで感想を送ったが、他は手書き・・・か。ふう~。

 ネットの見聞。
《 【まとめ】小林製薬「紅麹」問題 自主回収の製品は? 菓子や味噌、調味料にも… 》 東京新聞
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/318171

生動力 静動力 制動力(閑人亭日録)

 私の推す美術家たちの特徴を表す生動力、静動力、制動力という漢字が浮かんだ。アルファベットでは思いつかない言葉。簡単にメモ。

  ・生動力 上條陽子 奥野淑子 佐竹邦子 白砂勝敏
  ・静動力 味戸ケイコ
  ・制動力 北一明

 作品から美術家の生命力の勢いを直(じか)に感じ取る。瑞々しい情動の源泉を生動力と呼ぶ。
 作品から美術家の深く沈潜する静けさを感じ、その深みにひっそりと息づく心を静動力と呼ぶ。
 作品から美術家の手腕により釉薬と造形の前例を見ない創造美を焼成した能力を制動力と呼ぶ。

LED照明(閑人亭日録)

 昨日、書斎の照明を電球からLED照明に替えたが、その効果に驚く。北一明の耀変茶盌に顕著だが、耀変が鮮烈に現れる。いやあ参ったわあ。技術の進歩は侮れない。

 「アブソリュート・チェアーズ」なる椅子の展覧会が埼玉県立近大美術館で開かれている。
 https://pref.spec.ed.jp/momas/2023absolute-chairs

《  開館当初からデザイン椅子の名品を館内に設置してきた「椅子の美術館」が、従来のデザイン椅子展とは異なる新しい視点から「椅子」というテーマに挑みます。 》

 ウェブサイトを見た限りでは白砂勝敏さんの制作したような椅子は見当たらない。
 https://shirasuna-k.com/gallery-2/wood-sculptures-chair/
 私の推す白砂勝敏、北一明、つりたくにこ、そして奥野淑子。日本の美術界では・・・。