古邨、ソンソン

 高城高「墓標なき墓場」創元推理文庫を読んだ。昭和33年の晩夏、北海道の釧路から根室を舞台にした事件。
「江上は耳を澄ました。霧のなかから臨港鉄道の気動車が通る音が聞えた。ボートのエンジンの音は聞えない。あたりにはもう黄昏らしい暗さが迫っているようだったが、勿論それは霧のせいなのだ。港の真中に突き出した台地は今日も見えなかった。」
 結尾の一節が寒々とした夏の釧路を思い出させる。新保博久の解説によると「本邦ハードボイルドの嚆矢はやはり高城高」。そして彼の昭和30年の「X橋附近」に「基点をおくべきだろう。」というので、河出文庫「仙台ミステリー傑作選」に収録されている「X橋付近」を再読。
 高城高は書いている。
「ハードボイルド小説になるかならぬかは題材の問題ではなく、素材をどんな風に見詰めどんな言葉で写しとるかの問題だ」
 これは絵画にも通じることだ。描かれた美女や風景に惹かれる前にその描き方や筆触に惹かれるのだ。だから、モデルの美女や風景画の場所を目の当たりにしても、絵画から受けた感動と同質の感動は湧かない。

 展示替え終了。昨日、来館された年配の洋画家が今回の木版画を観て感心していたけれど、我ながらいい展示だと思う。展示数は四十点あまりだけれども、いいものを展示できた。味戸ケイコさんと北一明氏の展示を合わせて、どなたにも満足されるものだと自負している。だからこそ 中国人美術家たちが感銘を受けた。
 なにせ無料だから観なけりゃソンソン。古邨はサイコー。
 午後来館されたご夫婦、内野まゆみさんの絵葉書4枚、小石絵2個、木片絵3個を買っていかれた。そんなに買っても千円、たったの千円。どれも手描きの一点モノ。買わなきゃソンソン。

 昨夕は帰りがけにブックオフ長泉店に寄って竹本健治「闇のなかの赤い馬」講談社2004年初版と目崎徳衛「百人一首の作者たち」角川ソフィア文庫2005年、計210円。きょうは志水辰夫「深夜ふたたび」徳間書店1989年初版、ドナルド・E・ウェストレイク「ウェストレイクの犯罪学講座」ハヤカワ文庫2000年4刷、計210円。「闇のなかの赤い馬」は埴谷雄高「闇のなかの黒い馬」を連想して。なにか関係あるのかなあ。「深夜ふたたび」は贈呈用。